閉ざされた時間の中で
@magro_oisi
第1話 真っ暗な時の果てに私は光を見た
俺は呪われている。
2028年5月10日水曜日7時12分15秒
『ピピピピ』
目覚ましの音がする。また今日が来た。俺は重い足取りで階段をおりた。途中台所から、いい香りがして見に行った。
「あら、光輝おはよう。早いわね」
母が目玉焼きを作っていた。最近はこれしか
食べていない。
「おはよう。」俺は欠伸をしながらリビングに
向かい、テレビをつけた。見慣れたニュースにはもう飽きたが、特にすることもないので、ぼーっと眺めている。
「ほら光輝さっさとご飯食べちゃいなさい」
母に催促され、俺は席についた。
「いただきます」
ご飯を口に運ぶ。よく知った味。もう飽きたが
口には出さない。
「美味しい」できるだけ笑顔で言うと、母も嬉しそうに笑った。
「光輝、これ好きだったもんね」うん。確かに
そうだった。俺は朝食を済ませると家を出た。
学校に行かなきゃならない。途中犬のフンを
避け、速度違反の車もスルーして無事に学校に
着いた。
教室に着くと、にかなりのクラスメイトが雑談に花を咲かせていた。「昨日のテレビ見た?」
「昨日彼女とさ」「ソトノのライブ行ったんだ」「ガチャ引いた?」聞き慣れた会話が聞こえて
くる。「指スマ1!」おっと、そろそろだ。
「邪魔。どいて。」後ろから声がした。俺は肩をビクッとさせて振り向く。そこには金髪で、
美形。学校のマドンナ、白河光梨がいた。
「あ、ごめん」俺はサッと避ける。
「ホント、ノロマ」白河は俺に悪態を着くと、
仲良しグループの所へと戻って行った。
白河光梨。彼女と俺は家も近く、幼稚園からの仲、いわゆる幼なじみなのだが中学に入った頃
だろうか、白河は俺に突然悪態を着くように
なった。理由は分からない。
さて、あと3分15秒で先生が来る。俺は自分の
席へと急いだ。
「影山!今日ゲーセン行こうぜ!」クラスメイトの春樹が、話しかけてきた。
「ごめん今日用事あって。」断ると悲しそうな
顔をしながら、「じゃあしゃあないか」と言う。
俺は教科書類をバックにぶち込み、そそくさと
教室を後にした。
放課後。学生が最も心待ちにする時間。通常
ならば普段から仲のいい春樹などと遊んで帰るところだがそんな気分じゃない。と言うかこのところずっと心躍らない。理由は分かってる。
俺はカラスのフンを避けると家の戸を引いた。
さて特にやることも無い。俺はバックを放り
投げるとベッドにダイブした。時間を見るとまだ4時半。夜飯にもまだ早い。
(まだ早いけどこれくらいでいいか。)
俺はゆっくりまぶたを閉じると深い眠りについた。
2028年5月10日水曜日7時12分15秒
『ピピピピ』
目覚ましの音がする。何度目かの今日が来た。
俺は重い足取りで階段をおりた。俺は台所にいる母に挨拶しに行く。
「おはよう。」
「あら、光輝おはよう。早いわね」俺は蛇口を
捻る。コップを構え出てきた水をコップに注ぐ。1口飲むと眠っていた内蔵たちがじわじわと起きていくのを感じる。
「ほら光輝さっさとご飯食べちゃいなさい」
母に催促され、俺は席についた。
「いただきます」ご飯を口に運ぶ。よく知った味。もう飽きたが口には出さない。
「美味しい」できるだけ笑顔で言うと、母も嬉しそうに笑った。
「光輝、これ好きだったもんね」そうだった。 俺はこの料理が好きだった。
俺は朝食を済ませるとすぐさま家を出た。
さて、既に気づいてるとは思うが、念の為に説明しておく。俺は今、現在進行形で、1日を繰り返している。
最初に違和感に気づいたのは100日と少し前の
5月10日。俺は皆の言動に既視感を覚えた。その日からだ。眠る度に1日を繰り返すようになったのは。
最初のうちは楽しかったが、次第に不安に
駆られた。
(これ、いつ終わるんだ?)
何度寝ても、明日が来ない。俺はやり場のない
恐怖に支配され、この生活から抜け出す術を探すことにした。
このループは俺の睡眠がトリガーであることは早いうちに気づいた。学校の昼寝でもループした時はさすがに驚いた。
俺はループに対抗するべくまず眠らないに挑戦した。が、24時を回った瞬間、1日がループした。どうやら俺が寝ることとは別に、24時になると自動的に1日が巻き戻るようだ。
加えて、この状態では死ぬ事も出来ない。死亡もまたトリガーなのか死亡が、眠るにカウントされてるのかは分からないが、登校中に違反車両に
跳ね飛ばされる度1日を繰り返した。
俺が気づいたのはこんなところだ。今では1日から抜け出すことは諦めてしまった。
「この問題解いてみろ、じゃあ…影山。」数学の時間。先生が俺を指名した。俺はゆっくり立ち
上がると、黒板の前に立ち、問題をとき始める。
「出来ました。」俺は100何回も繰り返した問題を手際よく解いた。
「すごいじゃないか影山。予習したのか?」
「まぁ、そんなとこです」ループしてるからです!とは、口が裂けても言えない。以前それで
酷い目にあったのだ。俺はそそくさと自席に
戻った。
「調子乗んなよザコ」後ろから声がした。これもまた恒例行事、白河光梨による、悪態選手権だ。
「はいはい。」俺は大人の対応で流す。後ろから舌打ちが聞こえたが気にしない。そんな調子で
俺は今日の授業点をかっさらっていった。
放課後。春樹からの誘いを断り俺は教室で
1人ボケッとしていた。珍しくこのまま帰るのが嫌になり教室に残っている。俺は椅子の前足を浮かし天井のシミを数えていた。
「何まだいたの?」突然の声に驚いて俺は体制を崩し、転びそうになったところを何とか堪えた。
白河だった。
「相変わらずマヌケね。」1連の俺の動きを見て
そう言った。顔が熱くなるのを感じる。
「うるせぇよ」
「私帰るから。あんたもとっとと帰れ」
相変わらず嫌なやつだな。そう思っていたら
気づいた。1日から抜け出すことで頭がいっぱいになっていたが、今日は白川の誕生日だ。
「白河」俺は100何日か前つまりループ前に春樹とクレーンゲームで取ったクマのキーホルダーを
投げる。「わっ!」白河は驚いて声を出し、キーホルダーをキャッチした。
「なにこれ?」「?プレゼント」「なんで、あんたが?」何を言っているんだ?
「誕生日だろ?」瞬間白河の顔が赤くなる。それを隠すためか俺に背を向けた。そしてボソッと「覚えてたんだ…」と言った。
上手く聞き取れなかった俺は「なんか言った?」と何も考えずに聞いた。「なんにも言ってないわよ!ブサイクなクマね!」そう言う白河の耳はほんのりと赤みがかっている。
「照れてる?」「!」俺がニヤニヤしながら聞くと白河は声を荒らげた!
「うるさい!なんで私があんたなんかに照れなきゃいけないのよ!」
顔を真っ赤にして怒っている。「あ、…ごめん」
さずかに調子に乗った。気まずい沈黙が流れる。
もういい、と白河はバックをもって教室を出ていこうとする。しかし扉を開けたところで足を止めた。「キーホルダー、ありがと…」振り向かずに言った。
先ほどまで怒っていたからか白河の耳は真っ赤だった。
「…おう」オレがぶっきらぼうに答えると白河は小走りで帰路に着いた。
また、ミスったな。プレゼントを渡したはいいが、より一層嫌われた気がする。でも、まぁ
「また、今日をループする訳だし。」
こんな風に毎日色々するのは悪くないかもしれない。時間はたっぷりあるんだ、少しずつ白河とも仲直りできるといいな。
俺が大きく伸びをすると椅子が後ろにひっくり返り無様に倒れ込む。
「……」
(今のを白河に見られなくてよかったぁ!)
2028年5月11日水曜日7時12分20秒
『ピピピピ』
「は?」俺は時計を見て開いた口が塞がらなくなった。それはもう、顎が外れる勢いで。
(時間が進んでる?)
まず状況を整理しよう。100日以上続いた1日が突然終わった。なぜ、急に?なにか変わったことでもしたか?いくら思考をめぐらせても結論が出ない。
終わったのか?地獄が?俺は表情筋が緩んでいるのを感じる。
俺は上機嫌で、階段をおりた。
「光輝。今日も早いのね。」
新鮮な会話。
『次のニュースです』
始めてみる特集。あぁ、明日が来るってこんなに素晴らしいのか!俺は久しぶりのベーコンと目玉焼きではない朝食をとりスキップしたい気持ちで学校に向かった。
「あら、機嫌がいいのね。気色悪い」
久しぶりの新種の悪態に俺はニヤニヤが止まらない。
「何ニヤニヤしてるの?」気持ち悪い、と白河が言うが。今の俺は全部帳消しにできるくらい機嫌がいい。
「あ、」俺は気づいた。白河は俺が昨日渡したキーホルダーをバックに付けている。
「そのキーホルダー付けてくれたんだ。」
「!」また顔を赤くする。
「別に気に入ったからつけた訳じゃないわ!つけてやったのよ!ありがたく思いなさい!」
また怒らせてしまった。
窓から入ってくる風に髪が煽られる。心地よい風を全身で感じる。(あぁ。本当に終わったん
だな。)始業のチャイムがなる。俺は席に
着いた。
今日は春樹とゲーセンに行こう。俺はしたいことが波のように溢れてくる。終わったんだから好きなことをしよう。
授業が始まりノートを取り始める。
気づくと眠っていたようだ。俺はチャイムの音で目覚めた。(いかんいかんしっかり授業を
受けないと。)そんな俺の考えは少しずつ曇っていった。(あれ?)チャイムが知っているチャイム
じゃない。だがよく知っている。
(あぁ)目を開けたくない。しばらく目をつぶったままでいたが、意を決して瞼を開いた。
2028年5月11日水曜日7時13分03秒
どうやらそう上手くは行かないようだ。
続く
閉ざされた時間の中で @magro_oisi
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