短編

ニニ

才能

誰かに認められたい。誰かに評価されたい。確固たる実績が欲しい。そこらへんにいる一高校生の枠で収まりたくないと思いつつ、コンテストに出さず、稀に出しても佳作止まりでクラスメイトが大賞をとる現実を見れば私は所詮一高校生の枠に収まるしかない人間なのだろう。なんとなく自習の時間に配布のタブレットを開いて、ラフのようなイラストを本気で描く。これを落書きと称していいねをいっぱい貰う妄想をする。もしくは流行りの曲の歌詞を入れて動画を作ってもいいだろう。どのルートも高評価がもらえて話題になるような妄想をする。同級生に見られても恥ずかしくない、本気出してない感じのする全力を尽くした絵。

「そのキャラ誰?ゲーム?」

「別に誰とかないよ。なんとなく思いついただけ」

「香川ってめっちゃ絵描いとるし上手いじゃん。コンテストとか出さんの?」

「どうせ出しても通らないし。まぁSNSにあげて誰かからいい感じに評価されてバスったらいいなとは思ってる」

「どうなるかなんてやってみんにゃ分からんやん。ほらこないだの全校集会で表彰されとった子おったやん?あんな感じでさ」

「でもコンテストに出す時間ないし。自分のペースで投稿した方が気が楽かな」

「あー年に数回しか投稿せんのにえぐいフォロワー抱えとる人おるよな。ま、そういう人を天才とか言うんやろうけど」

「天才っていいよねー。私だって才能あったらコンテストやSNSで無双できるのに」

「香川はダンスがあんじゃん。むしろ県大会入賞ダンス部のキャプテン兼センターしておきながらなんで絵ばっか描きよるん?」

特に思い当たるきっかけはなかったが少女向け雑誌にあったモデルコンテストの結果、マンガ賞の受賞作品の読切が羨ましくて仕方がなかったことを思い出した。応募するだけで賞賛がもらえる、世間に見つけてもらえる。その反面、落選という文字が怖かった。

昔読んだ本に書いてあった言葉がある。評価されたいから絵を描くのか絵を描いた後から評価がついてくるのか。絵以外にもやりたいことはある。大会で踊ったK-popの和訳が好きだったから韓国語も学びたいし来年には受験生だから勉強もしていかないといけない。絵は描きたいから描くだけでクオリティなんて考えてない。個性という言葉に逃げて技術も持たないから中途半端の域を出られないまま終わってしまう。ろくに努力もせず速攻で上達できるサイトの技術に甘えている私に才能なんてないのだ。ダンスだって自信を持って得意と言えるわけではない。

「……センターはいつもじゃないよ。ちょくちょく練習サボってるし」

「いつもセンターじゃなくてもあれだけ踊れとるんよ?それも入部時点で未経験の赤ちゃんから2年でセンターや。もう一種の才能じゃん?」

「ダンス部自体は県大会止まりだし大したことないよ。部活重視の学校じゃないから全国大会とかエントリーしないし」

「でもマジ羨まだわ。あれだけ踊れたら気持ちええやろなぁ。うちもあんな才能欲しいもん」

「まぁみんな何かしらの才能一つくらい持ってるんじゃないかな」

「そうは言うけど地球上に80億人もおったらしょうもない才能だらけよな。左足の小指単独で曲げれますみたいな」

「曲げられるの?」

「曲げれんけど頑張ったらできる気がする」

「できるようになったら世界で一人の天才になるかもね」

「こんな才能は一発屋で終わりじゃ」

定期考査で前回の点数と比べてショックを受けるように一度出した数値を下回ると心が傷む。ましてや周りに期待されていたらそれに応えられなかった事実が追い討ちをかけてくる。私は耐えられないけど芸能人やスポーツ選手、あらゆる天才はそれすらを超えられるだろう。何度でも復活する一発屋芸人はそのメンタルこそが才能なのだろう。

「いいよね。天才って」

「どのあたりが?」

「……コンテストやSNSで簡単に評価されること?」

私は一回バズればそれでいい。その次を求められて応えれる器じゃないから一回世間に見つかればそれだけで満足する。その一回を今か今かと待ち侘びている。

「それは失礼なんじゃね?」

「言いたいことはわかるよ。でもさ凡人の努力には限界があるじゃん。スタート地点が違うじゃん?少しの努力でも評価されるってずるくない?」

「それは香川のダンスにも言えるっしょ。ダンス部の十年選手を一年で追い抜かしたの誰よ」

「ダンスはシルエットが綺麗になればいいから才能なんて関係ないよ。絵はシルエット以外にもパーツのバランスとか違和感のないようにとか考えること多いじゃん。だから自分の思うように描ける才能を持ってる人が羨ましいの」

「自分の思うように描けるまで努力できる人が羨ましいんやなくて?」

「才能がある前提での努力なんて羨ましくもないよ。凡人の努力は天才の努力に勝てないから才能そのものが欲しいの」

私はその才能がないから何もやっていない。才能の無さを実感したくないし、どうせ天才ばかりに目がいって私を見つけてくれやしない。私だって生まれるならゴッホみたいな天才かダンスの才能にK-popアイドルの顔も持っていて大会でスカウトとかされる人生とか歩みたかった。

「天才しか努力しちゃいけんのん?」

「凡人には表に出る権利すら与えられてないだけ」

「でもうちは香川のダンスも絵も好きやけどね」

「ありがと」

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