第13話 一緒にいるだけで

「亮平くん?」


 渚咲が来るのを待っていると後ろから名前を呼ばれ、振り返るとそこには幼馴染みの茅森真綾かやもりまあやがいた。


 彼女は俺の顔をじっと見てから小さく笑った。


「やはり亮平くんでした。中学3年からクラスが離れてあまり会う機会がありませんでしたから久しぶりですね?」


「あぁ、そうだな」


 誕生日の時にメールでやり取りをするぐらいでここ最近は全く話していなかったので過去にどんな風に話していたのか思い出せない。


「ご友人とショッピングでしょうか?」

「うん。真綾は?」

「私は好きな人と…………」


 両手を合わせて恥ずかしそうに彼女は俺のことをチラッと見た。


「恋人ができたのか」

「私は好きな人が男性とは言ってませんよ? 待ち合わせ相手は女性です。私に恋人はいませんよ」

「…………言い方が悪い」

「ふふっ、そうでしょうか? 亮平くんはお付き合いされている方はいますか?」  

「いないよ」


 いるわけがないと心の中で突っ込んでいると彼女は小さく笑った。


「ふふっ、なら良かったです。恋人ができているのでしたら本当に話す機会が減ってしまいますからね」


 真綾に付き合っていない人がいないのは驚きだ。中学の頃から男子にモテていて、何回か告白された話を聞いたことがあったので彼氏がいてもおかしくない。


 まぁ、けど、いない理由としては彼女が恋愛に興味がないからだろう。


「ところで亮平くんの言うご友人というのは藤原渚咲さんのことですか?」

「えっ……?」


 知らないはずなのにどうして真綾が待ち合わせ相手を知っているのか驚いていると目の前にいる真綾は俺の後ろを見た。


「こちらへ歩いているのでもしかしてと思いまして。藤原さん、私の待ち合わせ相手である友人とお話ししてますよ」

 

 真綾にそう言われて後ろを振り返るとそこには渚咲となぜか金髪ギャル(今日も髪型に気合いが入っている人)彩音がいた。


 あちらもこちらに気付いたようで彩音が大きく手を振っていた。


「彩音と友達だったのか」

「ふふっ、去年同じクラスでして。さて、行きましょうか」

「そう……って何で手を? 俺はよく迷子になる子供じゃないんだが……」


 渚咲と彩音の元へと向かうため歩き始めると隣に並んだ真綾に手を優しく握られた。


「すみません、昔のように手を繋ぎたいと思ってしまいまして……。亮平くんの手は大きくてとても安心できる手ですね」

「安心できる手か。そんなこと初めて言われたんだが……」

「ふふっ、勘違いされそうなのでここまでですね。彩音さん、お待たせしました」


 2人の元へ近づくと真綾は手を離し、彩音の元へと駆け寄った。


「待ってないよ~、私も来たばっかりだし。亮平と一緒だけど付き合ってたのかぁ~」

「ふふっ、付き合ってませんよ。亮平くんとは偶然お会いしただけです」


 真綾は彩音の言葉を否定し、小さく笑うと目の前にいる渚咲を見て微笑んだ。


「初めまして、藤原渚咲さんですよね? 学年首席ですので覚えています。私は茅森真綾です」

「初めまして、亮平くんの友人の藤原渚咲です」


 何だろうか。渚咲と真綾の間に赤い火花がバチバチしている感じがする。初対面だが、この人とは仲良くなれない、彼女達はそう言いたげな表情であった。


「まーや、顔こわこわになってるよ~。スマイルスマイル」


 彩音は真綾の頬をつつくと、彼女は怒ってもないし、苛立っているわけでもないと言う。


 2人のやり取りを聞いていると渚咲が近くまで来て、少し小さめな声で話しかけてきた。

 

「ごめんなさい。待ちましたか?」

「いや、待ってないよ。多分、電車1本早かったぐらいだし」

「そうですか……。あの、茅森さんとはどういうご関係でしょうか?」

「関係…………幼馴染みだな」

「幼馴染み……そうですか」


 しゅんと少し表情が暗くなっていたのでどうかしたのか心配だったが、彩音が話しかけてきた。


「藤原ちゃんの言う友人って亮平のことだったんだ。最近クラスでもよく一緒にいるけど遊ぶ仲とは知らなかったよ。さて、私達は映画見に行く予定だからそろそろ行かないと。真綾、行こっ」


「ですね。では、またゆっくりと話しましょうね亮平くん、藤原さん」


 手を振って立ち去る彩音とペコリと小さく会釈してから立ち去る真綾。


 2人が映画館へ向かい、渚咲と2人きりになると彼女と目が合った。


「今からパンケーキ、というのは早い気もするのですが……雑貨屋、本屋……亮平くんは行きたいお店はありますか?」

 

 渚咲の言う通り確かに今からパンケーキというのは早い気がする。朝食からもう少し時間を空けてもいいかもしれない。


「行きたいところ……本屋かな」

「本屋ですね。では行きましょう」


 渚咲は歩き始めると手と手が触れ合うほどの距離で俺の隣に並び、横顔を見ると彼女は嬉しそうにニコニコしていた。


「嬉しそうだな。何か買いたい本があるのか?」

「いえ、亮平くんとこうして休みの日にお出掛けが楽しくて。まだどこかの店に入ったわけではありませんが」


 俺も多分同じ気持ちだ。まだ何かをしたわけではないが一緒にいるこの時間が楽しい。


 もしかしたら渚咲と話してるこの時間が1番楽しいのかもしれないな。


 本屋に着くと小説が並んでいるところへ向かった。俺と渚咲にはお互い本を読むことが好きという共通点があり、同居を始めてから何度か本の交換をしている。


「このミステリー小説、面白いですよ」

「へぇ……読んでみようかな」


 本を手に取り本の裏表紙にあるあらすじを読む。


「すぐというのは難しいですが、家にあるのでお貸ししますよ?」

「いいのか?」

「はい。今度、一度家に帰る予定なのでその時に持ってきますね」

「ありがとう」


 もう1つの共通点で言えばミステリー好きなところだろう。小説だけではなく映画も見るそうだ。


「亮平くんのオススメも教えてくださいね。この前借りた作品はとても面白かったので」

「わかった。後何冊か渚咲の好きそうな本あるから貸すよ」

「ありがとうございます」


 俺も渚咲も本屋に来てしまうと時間を忘れてしまうほど面白い本はないかと探すのに熱中してしまうタイプであり、店を出た頃にはお昼を過ぎていた。


 お昼までの間だけいるつもりだったが、長居しすぎた。まぁ、楽しい時間が過ごせたからいいんだけども。


「さて、お次はお楽しみのパンケーキですね」

「あぁ……お腹空いた」

「ふふっ、私もです」


 パンケーキが食べることのできるカフェへ渚咲と向かうとここの店の服なのかヒラヒラした可愛らしい格好をした胡桃が満面の笑みで出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


 胡桃は確かバイトをしていなかったはず……と俺は胡桃が働いていることに驚いていたが、隣にいる渚咲はこのことを知っている様子だった。






           

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