第3話 ここが私の居場所


 私は教会の神官やシスターから出迎えられた。


 「お久しぶりですロベルト神官様、シスターの皆さんもお元気そうで良かった…」


 元々この教会でお世話になっていた時の神官のロベルト様やシスターたちの中にも見知った人がいた。


 私は懐かしさで胸がいっぱいになった。


 何しろ辺境であるこの地に聖女が来ると言うのは滅多にない事もあるし、いきなり私が帰って来てみんな驚いている。


 中でもシスタークレアが物凄く喜んで「アリーシアお帰りなさい。会えてうれしいわ」そう言うと私に抱きついた。



 神官のロベルトがコホンとひとつ咳をする。


 「クレアさん、まずは話を聞かなければ…」


 「すみませんつい、うれしくて…」クレアさんは恥ずかしそうに私から離れた。


 「それで、アリーシアいきなりどうしたんです?何があったんです?確かロイド殿下の婚約者になったと聞いていますが」


 「ああ、まだこちらに知らせが届いてないんだと思います。リント隊長と聖獣で来たもので…」


 「ああ、教会からですか。それでここにはいつまで?」


 (あっ、誤解させたかも‥)


 「あの、誤解があるようなので、すぐに知らせが来ると思いますが殿下との婚約はなかったことになったんです。それで私はこちらに戻るように言われて…」


 みんながしーんとなる。



 「いえ、婚約がなくなって私はほっとしてるんです。それにここは私の育った場所でむしろ喜んでるくらいです」


 「アリーシア。無理はしなくていいんです。みんなアリーシアの事を喜んで受け入れるから。聖女が来てくれるなんてこれほど心強い事はないからね。さあ、疲れただろう。とにかくゆっくり休みなさい。シスタークレア部屋に案内を」


 シスタークレアが私の荷物を盛ってくれた。彼女は私が赤ん坊のころから面倒見てくれた人で私に取ったらお母さんみたいな人だった。


 「さあ、アリーシア疲れたでしょう。部屋に案内するからゆっくりしてちょうだい」


 「はい、クレアさん。お元気そうで良かったです。またお会いできて本当にうれしいです。これからよろしくお願いします」


 「ええ、アリーシア。またあなたと一緒に過ごせるなんて夢のようです。王都では大変な思いをしたんでしょうね。ここの住人たちは気さくな人ばかりだから遠慮なんかしないでね。さあ、すぐに夕食だから急ぎましょう」


 「はい、ここの料理が懐かしいです」


 私は教会の一角にあるシスターたちが過ごす建物に案内された。


 クレアの後ろをついて行く私の胸は少しうずいた。


 (王宮からの知らせが届いたらみんなは私を信じてくれるのだろうか。でも、きっと私を信じてくれるはず)


 私はじわじわと染み出る不安を振り切った。




 夕食は神官様やシスター全員で頂くことになっている。


 神に祈りを捧げ今夜の晩餐に感謝する。


 そして和やかな夕食が始まった。


 私は質素な食事でもちっとも嫌ではなかった。今までも基本的には教会で過ごしていたので食事もスープとパン、少しのチーズと野菜などと言う食事に慣れていた。


 静かに食事をしていると神官様が口を開いた。


 「そう言えばアリーシアは聖獣の飼育をしていたそうですが」


 「はい、主に殿下のダイアウルフですが」


 「この教会でも魔獣の赤ちゃんを保護した時にしばらくここで飼育することになっているのですが」


 「魔獣の赤ちゃんですか?」


 「はい、ここには診療施設があるのでその関係でしょう。しばらく育ててオークの森に移すという計画なのですが…オークの森で育てれば聖獣になると言う話ですので」


 「そう言えばそんな話聞きましたが見たことはありません」


 「ええ、滅多にはいないそうです。それにまずはうまく育つかが問題でしょう」


 「と言うことは過去に魔獣の赤ちゃんを?」


 私は目の色が変わる。


 「ええ、ですが赤ん坊はやはり飼育が難しく今までに二度ほどありましたが…ですがアリーシアならばできるかも知れませんね」


 「私に出来るかどうかはわかりませんが、やってみたいです」


 「あなたなら聖女としての力もありますし、今度こそうまく行くかも知れませんね」


 「ええ、それにあなたがいてくれれば助かる人がたくさんいるはずです。帰って来てくれて本当にうれしいですよアリーシア」


 「ありがとうございます。私の方こそ。こんな私で良ければできる限り頑張りますからどうかよろしくお願いします」


 私はほっとしていた。


 ずっと気持ちが張り詰めていた。いつも人の目を気にして気の休まる事のない生活だった気がする。


 ここでは気負わなくていい生活が出来ると私は大きく空気を吸い込んだ。



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