小学校の学芸会で「お姫様役がやりたい」と言った私に友人が言った。

『月子（つきこ）ちゃんはお姫様というよりは王子様だよね』

　私は、可愛いよりカッコいいと言われることが多い女だった。男の子よりも女の子からモテた。女の子からモテることに関しては嫌ではなかった。その頃はまだぼんやりとしか自覚はなかったけれど、私は男の子より女の子が好きだったから。だけど、男扱いされるのは嫌だった。女から女として好かれたかった。

『ねえ。月子は好きな人居ないの？』

　仲のいい女の子から、そんなことを聞かれた私は私は『君が好き』と答えた。彼女は私の返答を『そういう好きじゃないよ』と笑い飛ばした。

『恋の話だよ。こーい。好きな男子の話』

『じゃあ居ない』と答えると彼女は言った。『好きな人が出来たら教えてね』と。分かったと返事をすると、胸がちくりと痛んだ。私は知らなかった。恋という感情は、必ずしも異性に向けられるものではないと。だから

『でも私、月子が男の子だったら好きになっていたかも』

　彼女が照れ笑いしながら言ったその言葉が胸に突き刺さった理由も、わからなかった。彼女以外からも同じことを言われていた。だけど彼女だけには、言ってほしくなかった。どうしてそこまでショックだったのか、分からなかった。いや、本当は薄々気づいていたのかもしれない。気づいていて、目を背けていたのかもしれない。

　歳を重ね、背が伸びるにつれて、男だったら好きになっていたと言われる回数も増えていった。いつしか私は、同性から同じ女として扱われることは諦めて彼女達の求める私を演じるようになっていた。その結果、ついたあだ名は王子。それが中学に入学してしばらくすると、白王子というあだ名に変化した。私の他にも王子と呼ばれる人がいたからだ。そのもう一人の王子は黒王子と呼ばれていた。黒王子こと安藤（あんどう）海（かい）さんとは別のクラスだったが、同じクラスの鈴木（すずき）麗音（れおん）くんが彼女と仲が良く、彼を訪ねてよく教室に来ていた。二人は付き合っているという噂が絶えなかった。どれだけ本人達が否定しても。それくらい仲が良かった。男女というだけでいちいち茶化されるのは鬱陶しいだろうなと同情すると同時に、羨ましかった。私には本当の意味で友達と呼べる存在はいなかったから。みんな私を王子様として扱うから。

　家族仲は、別に悪いわけではなかった。全く愛されていなかったわけではないと思う。ただ、両親の愛は私よりも兄に優先的に注がれていた。兄妹喧嘩をすれば、両親は私の言い分を聞くこともなく兄の味方をした。いつしか私は、家族にさえも本音を言わなくなっていた。学校では王子様を演じ、家では聞き分けのいい娘を演じる。自分も含めて、本当の私を見てくれる人なんて誰もいなかった。