カラオケ居酒屋桃子

@hukunagayuuji

第1話 その秋刀魚は本物?

「ただいま〜」

桃子がパンパンに入ったスーパーの袋を両手に持って帰って来る。


「またいっぱい買ってきて」

ここカラオケ居酒屋桃子でアルバイトをしている売れない演歌歌手、みどりがそれを見て呆れる。


「だって安いんだもん」

桃子は閉店前のスーパーに値引きされた商品を狙って買い物に行くのが日課になっている。


でも、ついつい余計な物まで買ってしまう癖は治らない


「あら、ケンちゃん来てたのね」

桃子はカウンターの、いつもの席に座っている常連客に話しかける。


「おお、桃ちゃん、おかえり、なんかいいものあった?」

常連だけあって桃子がこの時間に買い出しに行くのをよく知っている。


「今日はいいものあるわよ」


「なになに?」


袋からパックを抜き出して、自慢気に見せる


「じゃーん」


「秋刀魚?」


「そそ、これ見て安いでしょ〜、75円だよ」

パックには、小ぶりの秋刀魚が一尾入っていた。


「安っ、去年は秋刀魚が捕れなくてアホみたいな値段で出してる店あったらしいけど、秋刀魚の塩焼き10000円とか」


「高っ、じゃ〜今年は捕れてるんじゃない、知らんけど、食べる?」


「75円かぁ〜それ本物だよね」


「食べれば分かるでしょ」


「焼いてくれるの?」


「もちろん、焼きますよ」


「えーじゃー食べたい、ちょ、待てよ、それ本当に本物だよね?」


「だから食べれば分かるでしょ、焼くから待ってて」


桃子は秋刀魚を炭火で焼き始める。


「ちょっとまだ炭火が弱いから焼けるまで時間かかるかも」


それを聞いてみどりがカラオケでもどうかと勧める。


「いいね〜ケンちゃん景気づけにいつものヤツやってよ」

それを見ていた桃子も一緒になって勧める。


その気になっているケンちゃんにみどりは返事も聞かずに曲を入れ、店内にイントロが流れる。


マイクを持ってケンちゃんが歌い出す。



「カラダぐぅ〜🎵…」

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