第22話 温室

 橙色の光は、廃墟群から少し離れた場所にあった。昼間、モナがその場所を通りかかった時は、骨組みだけの建物の中に、灰色の葉をつけたままの枯れ木がたくさん立っているだけだった。

 モナは枠組みから中を覗いた。

 灰色の葉が橙色に発光している。枝や幹も生命の力が満ち溢れている。

 中から話し声が聞こえてくる。一人はルイ、もう一人は女性の声だ。

「もう帰ってこないかと思った」

「帰ってくるよ。地図を完成させないといけないし、ここを復興させないといけない」

「心にもないことを」

「あるよ」

「ふん。まあいいわ。あなたが連れてきた、お客さんがいらっしゃった」

 モナの前にある枝がひとりでに揺れた。モナは慌てて後ろに下がった。

 窓枠まで、ルイがやってきた。

「モナさん。ちょうどよかった」

「……何してるの? 誰と喋ってるの?」

「そちらの入り口から、どうぞお入りください」

 モナは中に入った。隙間なく生える木々からの圧迫感が強い。

「ここは一体何?」

「元々は温室です。爆発が起きてからは、彼女の家となっていますが」

「彼女?」

「紹介します。リエルです」

 彼が指し示す先には、一際大きな木が生えている。幹が太く、異様にブクブクと膨れ上がっている。その膨れた形は、ちょうど人間の形をしている。胴体、手足、顔、はっきりと判別できる。

「初めまして。私はリエル」

 口の部分が動いた。

「あなたのことは、さっき聞いたわ。モナさん」

「は、初めまして。あなたは……妖精族のヒト?」

「違うわ。人間族よ。爆発事故の時に、温室の木と融合してしまったの。今はずっとここにいる。動けないからね。時々帰ってくるルイの話を聞くのが楽しみなのよ。フフフ」

 彼女の笑い声に合わせて、周りの木の枝がサワサワと揺れる。

「昼間、ここに来た時は、こんなに明るくなかった」

「最近は、もうずっと寝ているの。退屈だからね」

「この世界には、他にも住人が?」

「いないわ。爆発の後、数人はいたんだけど、死んだり失踪したりして、今では私とルイだけよ。そのルイも、あんまり長いこと帰ってこないから、死んだと思ってた」

 枝がルイの頭をペチンと軽く叩く。

「でも、無事に帰ってきてくれて良かったわ。きっと、モナさんがいたからね。貴女のおかげよ。ありがとう」

 リエルはモナに向かって微笑みを向ける。

「リエル。お願いがあるんだ」

「はいはい。燃料ね。適当に持っていきなさい」

 周囲の細い木が何本か、ボキボキと音を立てて地面に倒れる。ルイはそれを大きな台車にのせ、外へ運ぶ。

「木が燃料?」

「正確に言うと、生命のエネルギーね。生きている物を燃料にいれないといけない。幸か不幸か、私は植物だから、こうやって燃料を提供できるの」

「……ふーん?」

 モナは曖昧に返事する。どういう意味か、いまいちよく分からなかった。

「ねえ、今までの旅の話をしてよ。どこで彼とは会ったの?」

 木の枝を編んで作られたベンチが出来上がる。モナはそこに腰掛け、促されるまま、今までの旅の話を始めた。

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