手違い転生~男の俺が聖女を目指して転生する~
りょう
第1章聖女を目指して異世界転生
手違いから始まるプロローグ
ーその力は世界を癒す
ーその力は人々を癒す
この世界にはその力を持って生まれる人間が数百年に一度いるという。
人はその者を『聖者』と呼び、大人になりその証が認められれば『聖女』になる
しかし長年。その天授とも言える力を持つ子供が生まれずに、『聖女』はおろか『聖者』も不在の状態になっている。
ー聖者もとい聖女が不在
世界のバランスを保つ為の『聖女』という存在がなければ、光と闇のバランスが崩れいずれ世界は大きな闇に包まれる。
そしてその未来は遠くないうちに間違いなくやってくる
二人の神様はそれに焦り、どうにかならないかと考えた。
そしてたどり着いた結論がー
(この胸の膨らみと下半身のスースーとした感じ……やっぱりそうなんだな)
聖女になるべく転生した俺の存在である。
「貴女はこれからこの世界の希望として生きるのよ、セフィ」
「あぅ……あ」
旧姓 折原光(おりはらひかる)
名を改めセフィとして異世界転生生活始めます
1
「ーそれでね、主人公は聖女として勇者様を助けるの。最初は右も左も分からない状態だったんだけど、色々な人の手を借りて成長していってね」
それはありふれた日常の中で起きた出来事だった。
「お前って相変わらずそういう話が好きだよな、希(のぞみ)」
「相変わらずで何が悪いの? そもそも光だってそういう話が好きなんでしょ?」
高校三年目を迎えた夏のある日のこと。周囲が大学受験シーズン真っ盛りの中、卒業したら就職すると決めていた俺は呑気な夏を過ごしていた。
呑気な夏と言っても、今隣にいる高野希(たかののぞみ)の余計なお節介のせいで、そんなにぐうたら生活を送れているわけではない。
ちなみに、何が相変わらずなのかというと、
「まあ、嫌いではないけどさ。毎日のように語られたら俺も嫌になるよ」
「毎日じゃないでしょ! 昨日は話してなかったじゃない」
「当たり前だ、昨日は休日だっただろ」
彼女は頭がすこぶる良いくせに(常に学年トップ)大のラノベ好きという性格をしている。そして一冊読み終わるごとにこうして俺に毎日のように語っているのだ。
どうやら最近読み終えたのは、異世界転移した主人公が、聖女となって世界を救ったという話だったらしく、彼女は朝俺に会うなり語り出したのだ。
「もう全く連れないなぁ光は。それだからモテないんだよ?」
「そ、そんなの関係ないだろ!」
「ほら図星なんだ。そういうところは相変わらずよね光」
「くっ」
(人の気持ちも知らずに……)
そんな俺達の日常も半年もすれば終わってしまう。希は大学進学、俺は就職。ここまで一緒だった道がついに別れる時が来てしまう。そんな寂しさが胸を締め付けることが最近増えた。
(そろそろ気持ちを伝えないと、絶対に後悔するよな)
「ひ、光」
「ん? どうした希」
「う、う、後ろ」
だけど俺はその想いを伝えられることはなくなってしまった。
「なっ、え?」
『折原光さん。貴方は選ばれました』
突如訪れた日常の崩壊によって。
「え、選ばれた?」
『だから死んでください』
「光!」
突然俺達の目の前に現れた鎌を持った少女の手によって。
「かっ、は」
「光ぅ!」
『任務完了……え? 彼じゃない? 選ばれたのはそっちの子? え?』
何が起こったのか認識できないまま俺の視界はブラックアウトする。恐らく少女が俺の首を刈ったことによる即死。
だけど俺にはそれを認識することができない。
「ねえ冗談でしょ?! 光、光!」
俺の名前を叫ぶ希の声も俺には届かない。
2
ーあれからどれくらいの時間が経過したのかは分からない
「もしもーし、私の声聞こえる?」
しかし俺の視界がい突然光を取り戻すと同時に、視界に現れたのは、俺を殺したあの少女と全く同じ容姿をした銀髪の少女。
「聞こえてる」
「よかったぁ。何とか魂だけでも呼び寄せられて」
「俺は何一つとしてよくないんだけど」
ホッとする彼女に対して、俺はイラっとする。
〔俺は間違いなくさっき殺されたんだよな、こいつに〕
見間違えるはずがない。俺が死ぬ前に見た少女は間違いなく彼女だった。
ーしかし少女は、それを知ってか知らぬか
「そうだよね。それに関しては何度でも謝るよ」
全く謝罪の気持ちがこもっていない言葉を俺に浴びせた。
「っ! ふざけんなよ」
その態度に俺の怒りの寛恕が爆発した。
「いきなり突然殺されて、それが人違いだったなんて冗談も大概にしろよ! それをただ謝れば許されるなんて、どういう気持ちでものを言っているんだ!」
少女の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
突然起こったことで何が何だかわからないが、一つだけはっきりしているのは
ー俺は彼女に殺された
理不尽で、そして唐突に起きたその事だけは、間違いないことだった。
「ま、待って、落ち着いて」
「落ち着いてられるか! 俺は…….俺はまだ希に告白もできてないのに、何で……こうなったんだよ」
高校を卒業するまでに俺にはやらなければならないことが沢山あった。けどそれが、あのたった一瞬の出来事で全てが奪われ、俺はどうすればいいか分からなくなっていた。
「本当に……ごめんなさい」
それに対して目の前の少女はただ謝り続けた。
3
「神様?」
どうしようもない怒りを見知らぬ少女にぶつけて少しだけすっきり俺は、一度状況を整理するために彼女に説明を求めたところ最初にそんな言葉が出てきた。
「まず私はシェリで、貴方の命を奪ったのは双子の妹のシュリ。私たちはある世界の神様なの」
「双子の神様って……いきなりそんなことを言われてもな」
「でもシェリが言っていることは本当」
すぐには信じられない顔を浮かべていると。シェリと全く同じ容姿をした少女が声をかけてくる。
「貴方には申し訳ないことをした、折原光」
彼女がシュリで、俺を殺した張本人ということだ。
「お前が俺を……どうしてそんなことをしたんだよ」
「聖者を生み出すため」
「聖者?」
「私達の世界には今強力な癒しの力を持つ『聖女』の強力な血を引く子供、聖者が生まれていないの」
「このまま聖者が生まれなければ聖女も存在しなくなってしまう。聖女は私たちの世界にとって『光』と『闇』のバランスを保つ存在。聖女の不在が長年続けばいつか世界は完全に壊れてしまうの」
「だから私たちは未来の聖女のために『聖者』を生み出すことにしたの」
「それがー」
「聖者転生計画」
『聖者転生計画』
二人の口から出てきた俺が巻き込まれることになってしまったその計画は、内容を知らずとも言葉の意味はよく分かった。
「つまりシュリが言っていた選ばれたっていうのは、俺、いや希がその計画の対象になったって事か?」
「そう。男性より女性の方がより強力な力を得られるから」
「結局手違いで君を呼ぶことになっちゃったんだけどね」
聖女なんだから男の俺がなるのはおかしな話だが、かといって希が巻き込まれていたらって考えるとこれはこれでよかったのかもしれない。
「でもいいのか?男の俺が聖女を目指すなんて」
「大丈夫だよ。光は女の子として転生してもらえばいいだけの話だから」
「へ?」
ー俺を女の子として転生させる
聞き間違いであってほしかったその言葉は、どうあがいても聞き間違いではなかった。
〔確かに聖女なんだから、男がなるものじゃないけどさ〕
しかも転生ということは当然だけど、
〔赤ちゃんになるのか? 俺〕
ー今からでも断ったほうがいいかもしれない
俺の危険信号が赤に変わりかけている。引き返すなら今しかない。
「なあやっぱり俺以外に」
「時間がないの、私たちの世界は」
そう思い断ろうとしたとき、シェリが少しだけ声色を低くして言った。
「こんな形で巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないって思っている。でも私たちには時間がないの光」
「そんなにやばいのか? その世界は」
「光が考えているより何十倍もやばい状況。今に始まったことではないのかもしれないけど」
「それはどういう」
「私たちも精一杯サポートはする。だからお願い、私たちに力を貸してほしい」
シェリとシュリの神様はそう言って俺に頭を下げてきた。
〔神様がここまでするって、相当状況は悪いってことか……〕
俺が背負うには重すぎるのかもしれない。
ーでもそれを希が背負うはずだった
そう考えると、ここで俺がやらないという選択肢はないのではないか。
〔人生のやり直し、か……〕
無に近かった俺の十八年の人生をやり直せるなら、今しかチャンスがない。
「……分かったよ」
それなら答えは決まっている。
「どうせ断っても無理やりさせるつもりだったんだろ? なら乗ってやるよお前達の計画に」
「本当に?! ありがとう!」
「じゃあ早速手続きを始める」
理不尽に奪われた俺の青春、異世界で取り戻してみせる。
4
「なあ、残された希がどうなったかは流石に分からないよな」
俺の決心がついたところで気がかりになったのは残された希のことだけだった。
「残念だけど、あれから私達は君の世界に干渉してない」
「やっぱりそうだよな」
神様がそう何度も異世界に干渉するものではない。希だって事件の張本人に会いたくないだろう。
「心配?」
「当たり前だろ。あいつだけ残してきたんだから」
「そこまで心配なら、転生する前に彼女にメッセージ残して。手違いのお詫びとして彼女に届ける」
「いいのか?」
「いいよね? シェリ」
「まあ、異例中の異例だけど仕方がないか。やり方も強引だったし、彼女ももしかしたら塞ぎこんじゃっているかもしれないしね。せめてものお詫びとしてそのくらいはするよ」
「ありがとう」
俺は咄嗟に希に届ける言葉を考える。言いたい事は沢山ある。謝らなければならないことだって。でも一番伝えなければいけないのは、
これまでの感謝の気持ちと、好きだったという気持ち
せめてそれだけでも彼女に届けたい。最後のメッセージを。
「じゃあ今から言う言葉を希に伝えてほしい。頼む」
5
メッセージを託してしばらくした後、準備が完了したらしく、俺は魔法陣の上に立たされていた。
「これから君には神の力を授ける儀式を行うね。そしてそれが終わったら、そのまま転生だから。その体で話ができるのも今が最後かな」
「いよいよか」
希に伝えたい言葉は全て託した。後悔がないと言えば嘘になるけれど、もう生まれ変わる覚悟はできている。
(これから女性になるって改めて考えるととんでもないことだよな……)
去年の俺にこんなことを言っても絶対に信じないだろうし、ましてや死ぬだなんて普通なら考えない。これが夢ならどれだけよかったことか……。
「折原光」
「な、何だ?」
突然シュリに名前を呼ばれて、変な声を出してしまう。
「今回の私達の失態に巻き込む形になってしまった事は、本当に申し訳ない」
「もういいって。希がこうなるよりかは全然マシだったから」
「そう言ってくれると助かる。その代わりと言っては何だけど、ちゃんと高野希にはメッセージを届けるから」
「ああ、頼んだよ」
俺がそう返事すると同時に足元の魔法陣が光る。
「これで準備を完了っと。じゃあ目を閉じて」
俺はシュリの指示通りに目を閉じる。すると何かの魔法にかけられたかのように俺の意識は急に遠のき始める感覚に陥る。
「次目を開けたら君は私達の世界エデルシアの未来の聖女、聖者として生まれ変わる。もう引き返せないけど、覚悟はできてる?」
「……ああ」
「じゃあ折原光、改めセフィ。貴方の新たな人生に光と神の加護があらんことを」
「私達は遠くで見守っている」
シェリとシュリの声は耳に届いているものの、もう声は出すことができない。
(次目が覚めたらもう俺が俺ではなくなる)
十八年共にした体も声も何もかも全部。
シェリが最後に言っていた
俺の新たな性はセフィだと
きっとそこにたどり着くまでにまた長い時間を過ごすことになるだろう。そしてその間に十八年の人生の記憶も徐々に薄れていってしまうかもしれない。
(でも絶対に忘れないことがある)
それは……。
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