1分で読めるショートショート

@Gryouu

自殺サークルの夜

「これで全員ですね」


 静かなカフェの一角に、6人の男女が集まっていた。全員、ネットの掲示板で知り合った自殺志願者だ。


「じゃあ……自己紹介を」


 一番若い少女が言うと、場が重く沈む。自殺サークルでは本名を名乗る必要はない。代わりに、死にたい理由を話すのがルールだった。


「俺は”K”。もう人生に疲れた」

「“S”です。生きてても意味がないので」

「“Y”、この世界に絶望しました」

「“M”です。死ぬしかないと思っています」

「“T”……ただ、消えたいだけ」

「“R”。苦しまずに死ねる方法が知りたい」


 6人は互いの言葉に静かに頷いた。


「じゃあ、どうやって死のうか」


 話し合いが始まった。首吊り、飛び降り、服毒……様々な方法が挙がるが、どれも決め手に欠ける。


「……せっかくだから、“最後の晩餐”でもしませんか?」


 “R”が提案した。誰も反対しなかった。


 ***


 近くの居酒屋に移動し、6人は適当に注文した。酒が入ると、自然と会話も弾む。


「みんな、意外と普通ですね」


 “Y”が微笑む。


「そりゃ、“普通の人間”が死にたくなるんだからな」


 “K”が笑う。その瞬間、彼の手がナイフを握っていた。


「おや?」


 “R”が冷静な声を出す。


「……どういうことですか?」


 “Y”が尋ねると、“K”は静かに答えた。


「いや、単純な話さ。“自殺志願者”なんて言ってたが、俺は”他殺志願者”なんだよ」


 空気が変わった。


「面白いですね」


 “R”がクスリと笑った。彼の手には、小さなガラス瓶。


「実は私、“毒殺専門”でしてね」


 “R”が瓶を開けると、“S”がポケットから銃を取り出した。


「やっぱり……みんな、そうだったんですね」


 “M”が頷く。


「ええ。私も”連続絞殺魔”ですから」


 彼女はスカーフを指に絡める。


「おかしいと思ったんですよ。自殺志願者なんて、そんなに集まるもんじゃない」


 “Y”がため息をつく。


「私も”拷問好き”なんで、できれば長く楽しみたいんですが……」


 “Y”がナイフを舌で舐める。


「……さて、どうしましょう?」


 全員が互いを見つめた。


 沈黙が落ちる。


 次の瞬間、銃声が響いた。


 ***


 翌朝。


 居酒屋の個室には、6つの遺体が転がっていた。


 しかし、一つだけ違った。


 “R”の遺体は、薄く微笑んでいた。


 ──自殺サークルは、“全員殺人鬼”だった。


 ただし、“R”だけが本物の”自殺志願者”だったのだ。

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