第6話 繰り返す時間

 朝、目が覚めると、カーテンの隙間から差し込む光がぼんやりと視界に広がった。俺はゆっくりと起き上がり、枕元のスマートフォンを手に取る。


 画面には「9月7日(水)」と表示されていた。


 ——え?


 思わず息をのむ。昨日も、確かに9月7日だったはずだ。


 枕元のカレンダーにも、同じ日付が記されている。混乱しながら、布団を跳ね除け、机の上の生徒手帳を開いた。やはり、そこにも「9月7日(水)」。


 「……どういうことだ?」


 まるで昨日と同じ一日がもう一度始まっているような感覚。


 着替えを済ませてリビングへ行くと、母がいつもと同じ朝食を用意していた。


 「おはよう、涼。早く食べないと遅刻するわよ」


 「……うん」


 普段と変わらない朝。けれど、違和感だけが強く残る。


 家を出ると、通学路には見慣れた景色が広がっていた。けれど、胸の奥には昨日と今日が重なるような妙な感覚が消えない。


 「おはよう、涼君」


 少し先で待っていたのは、宮村葵だった。昨日とまったく同じ場所、同じタイミングで、彼女はそこにいた。


 「葵……」


 思わず立ち止まる。


 昨日と同じ展開だ。まるで時間が巻き戻されたかのように。


 「どうしたの?」


 「いや……なんでもない」


 それ以上言葉にするのをやめて、俺は葵と並んで歩き出した。


 学校へ着き、教室のドアを開けると、陽翔が席でスマホをいじっていた。俺の姿を見て、顔を上げる。


 「おはよう、涼。……なんか、お前、昨日と同じことしてないか?」


 動きが一瞬止まる。


 「え?」


 「いや、なんかさ、デジャヴっていうか……俺の気のせいか?」


 陽翔が首を傾げる。俺はぎこちなく笑って誤魔化すしかなかった。


 授業が始まり、堀田先生の数学の授業が行われた。やはり昨日と同じく、先生は授業の最後に「今月いっぱいで退職する」と告げた。


 ——これも、昨日と同じ。


 まるで、もう一度昨日をなぞっているかのような違和感。


 昼休みになり、俺は迷わず屋上へ向かった。


 やはり、そこには葵がいた。


 「やっぱり来たね」


 昨日と同じ言葉。しかし、昨日とは違う温度を感じた。


 「葵……何が起こってるのか、わかるか?」


 葵はフェンスに寄りかかりながら、小さく首を振った。


 「正直、まだ整理がつかない。でも、涼君も感じてるんでしょ? 昨日と今日が重なってるみたいな感覚」


 「……ああ」


 俺は息をのんだ。


 「葵、お前は……いつからこういうことに気づいてたんだ?」


 葵は少し視線を落とし、考えるように口を閉じた。そして、意を決したように静かに言った。


 「私は……前から、こんな感覚を持ってた気がする。でも、それが何なのか、どうしてなのか、ずっとわからなかった」


 驚いた。


 「つまり……お前も、過去をやり直してるのか?」


 葵は微笑んだが、それはどこか寂しげだった。


 「わからない。でも、今こうして涼君と話してることが、前とは違うのは確かだよ」


 ふと、今朝の佳奈の表情を思い出した。


 教室に入る前、廊下の向こうからこちらを見つめる佳奈の目が、何かを言いたげに揺れていたのを。


 (もし佳奈も、この違和感に気づいているとしたら……?)


 放課後、俺は意を決して佳奈に話しかけた。


 「なあ、佳奈……」


 彼女は驚いたようにこちらを見た。


 「……何?」


 「今日の俺……何か、変じゃなかったか?」


 佳奈はしばらく俺の顔を見つめ、やがて小さく息を吐いた。


 「……昨日も、同じこと聞いた気がする」


 心臓が高鳴った。


 「佳奈……お前も……?」


 佳奈はそれには答えず、小さく首を振ると、ただ一言だけ呟いた。


 「もう少し、慎重に考えたほうがいいよ」


 それだけを言い残し、彼女は去っていった。


 俺は拳を握りしめた。


 何かが起こっている——それだけは、確かだった。


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