日本の腫れ物とされた転生陰陽師の成り上がり譚 ~復讐を誓った龍川はいつの間にか現代最強陰陽師~

タケチン

第1話 裏切り

 時は天安二年(858年)に亡くなった文徳天皇の御陵を、山城国かつ野郡(京都府京都市)の真原岡に定め、その任を終えた大納言安倍安仁(あべのやすひと)らの一行が、帰還途中のことである。

 突然、一行の中の滋岡川人(しげおかのかわひと)が血相を変えて、大納言に進言した。



「私はこの陰陽道に携わって、まだ一度も誤りを犯したことはありませんでしたが、今度ばかりは大きな失敗をしてしまったようです。このままでは、貴殿と私が責任を負わなければなりません。どうしたらいいでしょう」と。



 川人は具体的な失敗の理由を言わなかった。だが、そんなこと今はどうでもよかった。なぜなら、それを聞いた大納言も他の陰陽師たちもたちまち血の気が引いて真っ青となり、体の全身が震え上がっていたからである。

 陰陽道でいう <地の神>とは、<土公神(とくじん)>とも呼ばれ、その祟りは死に至る場合がほとんどだと言われている。

 ともかく、川人は考える時間はないと考え、自分以外の大納言含む陰陽師一行らを先に行かせ、川人だけが残った。

 囮となるため、川人は陰形の術で身を隠し、何とか逃げ延びて、帰還した。

 しかし、いつもなら暖かく迎え入れてくれるはずの住民たちに異変が起こっていた。



「あ、帰ってきたわよ。地の神様に怒りを買って無様に逃げてきたゴミクズが」

「そんなことするやつ地の神様に殺されればいいのよ」



 と、住民みんなに陰口を言われていたことに気がついたのだ。



「な、なん…でこんな、今まで命懸けで守ってきたというのに…、あんまりではないか…」



 そこで川人は悟った。いや、悟ってしまったと言うべきか。私は大納言安倍安仁にはめられたのだと。



 そして、ここからこの出来事は後世に語り継がれ、滋岡家一族の転落人生が始まったのである。


 * * *


 ◇時が過ぎ、現代の日本



「奥様、生まれましたよ〜。元気な男の子です〜」

「ぎゃぁぁぁぁん、ぎゃぁぁぁぁん(ん?ここどこだ?)」

「良かった〜無事に産まれて、ほらあなたも抱いてあげてください」

「あ、ああ、そうだな。ああ、なんて可愛いんだ。この子までもこれから虐められるかもしれないと思うと…自分の無力さをよく感じるよ」

「なんとしてでも私たちが守ってあげましょ。この子の未来のために」

「ああ、そうだな。俺らの子だからな」



 この日誕生した赤ん坊によって、裏切りにあったあの日から止まっていた歯車がゆっくりとしかし正確に動き出したのである。






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