第2話
「なんでここにユッキーがいるのぉ!?いや確かに可能性がないとは言えないけどぉ!?そんな宇宙から砂金一粒見つけるよりも低い確率を引き当てちゃうかなぁ普通!?」
モニカは召喚の儀を行った部屋で右往左往としていた。そのあまりの混乱ぶりに心の声がダダ漏れになっていた。普段の彼女を知っている人間からするとあり得ない混乱っぷりだった。
モニカの頭は─
今世で絶対に会うことの無いと思っていた
会った人が親友だったこと
どうやら記憶よりも少し成長していたこと
見慣れない制服を着ていたこと
という情報の暴力を受けてそれを処理しきれなかった。混乱のあまりに
「えっと…大丈夫ですか?」
召喚された彼は困惑したように言った。
モニカは確信した。
(あぁこの声は絶対に
「もう会えないかと思ってた。また会えて嬉しい。この世界の案内は私がする。とりあえず部屋を用意するからそこで待ってて」
それだけ言ってモニカは部屋を出て行った。再会の嬉しさで溢れてきたものを隠すために。
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「おまたせユッキーじゃあ帰ろっか」
ボクはユッキーの手を引き帰ろうとする。
「少し待って下さいあなたは誰なんですか」
モニカの親友もとい
いけないいけない久しぶりの再開でテンションが上がりすぎてたみたい。落ち着けボク
びーくーる びーくーる
「じゃあ自己紹介からしよっか。ボクは王国七賢人第一席のモニカ。エレストール王国で一番すごい魔法使いだよ!そして前世の記憶があるんだ!」
「…………………………」
なんとも言えない微妙な空気が広がった気がする。
やばいミスったかもしれん。
「なに言ってんだコイツみたいな顔しないでくれます!?そして今から話すからもうちょっと聞いてね。えぇっとどこまで話したかな?」
「貴女が前世の記憶を持っていると言ったところまでです。ふざけてるんですか?」
諒太は腕を組み困惑した態度で言ったきた。
「あぁ!そうだったね。あとこれでも大真面目だよ。ボクは前世の記憶があるんだけどそれが地球っていうところの多田唯斗って言う人のものなんだ」
「…え?」
「この人に聞き覚えがあるでしょ?ボクは君に見覚えがあるよ。幸村諒太くんでしょ?」
「え?あぁ…うん?なんで?あれ?なんで唯斗の事を知ってるんですか?」
突然知っている名前が出てきて諒太は混乱しているようだった。まさに想定外だったのか召喚されたときよりも動揺が見て取れた。
あぁなんかこの反応久しぶりにみたなぁ懐かしい。
「混乱しているね。いいよユッキー落ち着かまで待つよ」
「…えっと唯斗なのか?」
「うん唯斗だよ。まぁ今はモニカだけどね。あっ!そうだ信じられないんだったら2人しか知らない事を言えばいいんじゃないかな?」
諒太はそれもそうだと思い二人しか知らないような出来事を思い出し始めた。
「確かに…じゃあ小学校の時の俺たちの秘密基地はどこだ?」
「ユッキーの家のお父さんの書斎だったよね」
間髪入れずモニカが正解を答える。そのことにできないと高を括っていた諒太は少し面食らったような表情を浮かべ次の質問に移る。
「マジで合ってる…じゃあ唯斗が飼っていた猫は?」
「二毛猫のスズちゃん。…元気かなぁ」
またもや間髪入れずモニカが正解を答える。その表情と声色には懐かしさと寂しさの入り混じったような複雑な感情が表れていた。それを感じ取った諒太はとっさに謝った。
「あ…スマン。え…まじで唯斗なのか!?いや待てよ唯斗は交通事故で中三の冬休みで死んだ。けど今ここにいる???んぁ???夢???」
「アハハハッ!混乱してるね。まぁそりゃそうか。その件だけど多分転生したっぽい。眼の前の視界がぼやけると思ったら気づいたらお腹の中だ。あれにはびっくりしたね。まぁ今はモニカだからモニカって呼んでくれると助かるかな。」
あまりの混乱ぶりに笑い転げるモニカはヒーヒーと言って呼び方を決める。
「…おうとりあえずわかった。それでなんでここに俺はいるんだ?今どういう状況なんだ?」
「あれ言ってなかったっけ?まぁ帰りながら説明するよ」
「帰るってどこに」
「ボクの研究室兼家だけど?」
モニカは当然の様に言い放った。
「お前研究室なんか持ってんのか!?あんなに勉強ができなかったお前が!?」
「うるさ。いいから行くよ」
「あっちょっ待て!俺は今ここに来たばっかなんだぞ!おいっ!って力強っ!?」
諒太とモニカは王城をあとにした。諒太は若干引きずられていたが。
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「へぇ〜俺、勇者になったんだ」
「興味なさそうだね…けっこう大変だったんだけどなぁ」
何でもなさそうな諒太にモニカはガックリと肩を落とした。
「いや現実感ねーよ。高校生やってて急にあなたは勇者ですって実感沸くわけなくね?」
「確かにそうだね。私も転生したときびっくりしたし以外とファンタジーあるものなんだなぁ思ったね」
「「ところで」」
二人は同時に口を開いた。それは離れ離れになってたとは思えない程息が揃っていた。
「ん…いいよ」
「いや悪い先に言ってくれ」
「じゃあ聞くけど今高校生なの?今ボク26なんだけど」
「え!?26!?」
諒太はモニカが唯斗とわかったときと同じくらいの驚愕の声をあげていた。
「うん。何歳だと思った?」
「高めに見積もっても20歳くらいだと思ってた」
「お前の目は節穴か。まぁいいや。とりあえず時間軸がズレてるっぽいね。それに関してはどうすることもできないから考慮しなくてもいっか。それでユッキーの聞きたいことは?」
「その姿と喋り方だよ。他に何があると思ってんだ。」
当然の疑問と言ったばかりに諒太は言った。その疑問も当然のことだった。なぜなら彼の記憶の唯斗は男だったのだから。
「あぁなるほど。確かにそれは気になるよね。なんか転生したら女の子になってたんだよね。それで喋り方はシスターに死ぬほど矯正させられた。もう大変だったよ。あの頃には絶対に戻りたくないね」
「そっ…そうか」
諒太はあまりの熱量と早口に少し圧倒された様子だった。
「納得した?」
「まぁ納得だな」
「じゃあお腹減ったしちょっと小腹を満たしに屋台に行こっか」
「あっおいっ!ってやっぱ力強いな!?」
諒太の抵抗も意に介さずズンズンと引きずって行くのだった。
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「この串焼きいくら?」
「五本で銅貨三枚だと言いたいところだが嬢ちゃんは偉い別嬪さんだな二枚でいいぞ」
ニカッと気持ちの良い笑いを浮かべ店主は言った。
「じゃあそれで」
「まいど!また来てくれよな!」
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「ユッキー串焼き買ってきた。食べよ」
「おう、ありがとうな。じゃあ貰うわ。ってうま!あんまり異世界のメシに期待してなかったけどこれなら心配なさそうだ」
諒太は恐る恐る一口食べた後に少し目を丸くして安心したように顔を綻ばせた。
「うん、美味しい。あのお店はアタリだったみたい。あっ三本食べていいよ。なんか胃が縮んだみたい」
「へえぇーじゃあ遠慮なく。うまっ」
「さてとお腹も膨れたし帰ろっか」
「そういや帰り道だったんじゃねぇか。なに道草食ってんだ」
「串焼きだけどね」
「違ぇよ。いや合ってるけど違ぇよ」
「まぁまぁそうカッカせずに」
「してねぇよ!」
「ほらしてるぅ」
「うっざぁ」
ポンポンと会話のキャッチボールがなされていく。それは姿は変われど間違いなく親友の姿だった。他愛のない会話をしながらモニカの家へと二人は歩いていくのだった。
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「さぁ着いたよここがボクの研究室だ!」
「広くね?」
「そりゃ実験施設も兼ねてるし。あっ…」
「どうした?」
「えっと…なんでもないよっ☆お風呂は突き当り右ね。それが終わったら声かけてね」
捲し立てるように言ってグイグイと風呂場の方向へ押しやろうとする。
「ちょっおい押すな!なんか怪しい…まぁいいや。突き当り右ねOK。着替えは?」
「脱衣所の棚にあるもの着て」
「わかった」
ギィ〜パタン
(危なかった〜よかった~研究室見られなくて。あの資料とレポートの山見られたら絶対怒られてた。マジでよかった~)
(……片付けしますか)
(やりたくないぃ……)
「ふぅいい湯だった。唯斗じゃなかった。モニカが造らせたのか?確か棚だったよな…見事に全部Tシャツだ。まぁ着方がわからないよりましか」
ドサドサッ
ザザザ
ドーン!!
「え、なんだ今の音」
音のした方向へ行くと研究室と書かれた扉があった。
「何やってんだお前」
「痛たた〜ってユッキー!?…えっとこれは片付けをしようとしましてぇ〜」
モニカは資料の諦めた表情で山の前に佇んでいた。
「ハァ…お前昔からそうだ!男だったときも部屋が汚かったし、何回も直せと言いましたよね!」
「アハハハ…ごめんなさい」
モニカはそれはそれはバツが悪そうな顔をして謝った。
「はぁ…ほら手伝うからお前もやれ」
「…なんだかんだユッキーって優しいよね」
「親友が困ってたら当然だろ」
(あっ…まだ親友って思ってくれてるんだ。そっかぁ…うん。)
思いがけない言葉をかけられて、少しこみ上げるものを感じたモニカだがそれを諒太に悟られたら絶対に碌なことにならないと思って、必死にごまかす。
「えぇそうかな~ボクの記憶の中では結構みんなに優しかった気がするなぁ〜」
「うるせぇ口より手ぇ動かせ」
「はいはいわかってますよ」
「俺、協力してやってんのになんで上からものが言えんの…?」
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「「終わった〜!!!」」
「もう疲れた俺は寝る」
酷い目にあったと言わんばかりの顔で訴えかけるような視線を向けられてモニカは苦笑交じりに返す。
「ありがとう。付き合わせてごめんね」
「気にすんな。じゃあお休み」
「おやすみ」
ギィ〜〜パタン
「…ユッキーにまた会えるなんて思ってなかった。…もうボク二度と会えないと思ってた。……よかった…また会えて…」
彼女はあのとき抑えたはずの感情がませり上がってくるのを感じた。
そして諒太が見ていない今その気持ちは決壊し、視界が滲むのを感じ慌てて袖で顔を拭い辺りを見回して誰もいないことを確認してホッと息を吐く。
「さぁ〜明日から忙しくなるぞぉ〜!」
「うるさい!」
親友のいる部屋から声が聞こえてくるがモニカはどこ吹く風と鼻歌交じりに自室へと向かった。
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