TS転生して親友を勇者召喚する
46クマ
第1話
「落ち着いて下さいあなたは…ってえええ!?なんでぇ!?」
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「陛下っ!大変です!帝国に続き教国までもが勇者のお披露目会を行うようです!このままだと奴らは勇者の存在を大義名分に攻め込んで来るはずです!何か策をっ!」
初老の男性がドタバタと入ってきて早口で報告を上げる。
「わかっておる。だがしかし現在この国に勇者がおらんのが事実。どうしたものか…」
「ならば勇者召喚の儀を行いましょう!さすれば我が王国にも勇者が現れます。」
「…あれにはそれ相応の危険が伴う。ならば周期を確認するべきであろう?」
「…そうですね。…しかしこうも勇者が現れなければやはり儀式を行う必要があると思うのですが…」
「くどい、これ以上待たせるな。今回お披露目された勇者の年齢はいくつじゃ?」
「15歳です。そして帝国の勇者は王太子で現在8歳ですね。」
「ならばもうこの王国にいてもおかしくはない。しかし一向に現れない。もう召喚するしかあるまい。…そうだなモニカを呼んでこい。」
「あの者ですか…」
「なにか不満があるのか?」
「あの者は孤児出身ではないですか…確かに魔法はできるようですがあんな下賤な生まれの者を使うのではなく高貴な身分である私達が相応しいと考えます」
「あれは孤児出身ながら王国七賢人の第一席に座った。加えてこれまで一度もその椅子を渡したことのない逸材ぞ。その者に任せず誰にすると言うのだ…」
「まずは貴族なのは当然ではないですか?この儀式は神聖なものです。青き血を引く者が行うのは当然でしょう。そうですね…やはり魔法の名門ラングロトラ家などはどうでしょう。当主は王国七賢人の第五席、十分に役目を全うするでしょう」
「お主は伝承を学んでおらんのか。勇者召喚の儀にはそれ相応の危険が伴う。失敗して王国が滅びるなどあってはならん。この国で一番魔法に長けたものが行うべきだ。よってモニカに任せる。」
「…ですが!」
「くどい!…もうよい下がれ」
「………ハッ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
太陽が空の高いところに登る頃の時間にボサボサの髪と明らかにサイズの大きい服を着た女性が郵便受けを開け何通かの手紙を持ち自らの家に帰って行く。
(えっとこれは──無視してもいいやつ、これは返事したほうがいいかなぁ。これも無視してもいいか。よし!後はこの封筒だけかぁ。なんだろ?)
その封筒は一際上質な紙であった。その中から手紙を出し開けようとした。蝋封がしてあった。蝋封はとても一般人がするものではない。
この世界で蝋封は基本的に一定以上の立場のある人がなにかを内密に伝えるときに使用するのが一般的である。
モニカは既に嫌な予感がしていた。それでも見ないわけにはいかず恐る恐る蝋封を開け手紙の端にしてある押印をみた。思わず手紙を裏返し隠した。もう一度恐る恐るみるとそこには王族の家紋があった。
(うえええぇぇぇ!?なにこれ王族の手紙!?)
(読みたくない…)
(意を決して!…いざっ!)
『3日後王城に登城せよ。重要な用事がある』
(絶対面倒事じゃん行きたくないけどいかないといけない…これがブラック企業に出勤する社畜の気持ちか…)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大きな扉が重たい音を立てて開きひとりの女性が歩いてくる。コツコツという足音と共に現れたその姿に護衛の騎士は我を忘れてしまう。しかし、それは仕方のないことであった。燃えるような赤い瞳と、自ら光ってるのではないかと言わんばかりに光を反射し輝く金髪。この世界の女性の平均身長より少し高い身長であろう体躯は、出る所は出て引っ込む所は引っ込むといった女性らしい体つき。少しあどけなさを残す顔は自身が最も優れていると言わんばかりに自信と余裕に溢れている。
聞けば百人中百人が絶世の美女と答えるであろう女性がそこには居た。
だがしかし前世は 男 である
「面を上げよ。お前を本日より勇者召喚の儀を執り行う者として任命する。しっかりと励め。」
え?…待って聞いてない。しかも絶対面倒くさいやつ。
「陛下、発言を許していただいても?」
「許そう」
「あの勇者召喚の儀をするとは聞いてないのですが。」
「今言った」
悪びれる様子のない王を見てモニカは多少口元を引き攣らせながら続ける。
「現在我がエレストール王国で勇者が誕生したという情報はないのですか?」
「少なくとも余の下にそのような報告は上がってきておらぬ」
王は淡々とまるで機械のように答える。少しでも情報の欲しいモニカは次の質問を投げかける。
「現在我が国は勇者を必要としているのでしょうか?」
「レンリュネール帝国、メリステ教国の二国に勇者が誕生した。このままでは三大国のパワーバランスが崩れる。他にも理由があるが不確定である以上ここまでしか話すことはできない」
「それって話してよかったのですか?」
「無理やりやらせるのだ。迷惑料だと思ってくれ。では頼んだぞ」
ああぁああぁ!!もう受けないという答えが無いじゃん!!!せっかく仕事が終わったのに!!!こんのバカ王がぁぁぁ!!!
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王城内の一室の扉の前に数人の騎士が集まっていた。皆、剣を持ちを持ち厳戒態勢だということが窺える。集められたは騎士たちは一見和やかな会話をして隙だらけに見えるが、実のところ一分の隙もない。その部屋の中には魔法使いが慌ただしく走り回り一人の女性の魔法使いが時折指示を出している。よく見るとその部屋は堅牢なつくりになっていることがうかがえる。しゃがんで魔法陣の調整をしていた女性の魔法使いが立ち上がって言った。
「皆さん魔法陣が完成しました。この魔法陣でいけるはずです。理論上は。できるだけ不測の事態を避けるため注ぐ魔力はボクのだけで行います。もし暴走した場合はあなた達が魔法を放つなり何なりして止めて下さい」
魔法陣が光を放ち始める。淡い光だったそれはいつしか目を焼くほどの眩い輝きとなり尚その輝きは強まり続けている。どれくらいの時間がたったのだろうか。流石にモニカといえども魔力の残量がキツくなって来たのか少し顔を引きつらせている。
突如光が消える。
お互いに目を合わせ失敗したのではないかという何ともいえない空気が流れ始めた。
一拍遅れて魔法陣が一際強い光を放ち部屋は光に包まれた。
その光はそこにいる全員の目を焼き視界が白く染まった。
徐々に目が慣れてあたりが見えるようになった。そこには動く人影があった。
成功だ。
モニカは急に呼ばれた勇者は混乱しているだろうと思って声をかけることにした。
「落ち着いて下さい。あなたは…ってえええ!?なんでぇ!?」
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