従兄妹
赤根好古
第1話
霧雨にけむる街中を早朝、ひとりの男が走っている。軽快なピッチで、一足一足。
黒の上下のヤッケに、同じく黒の帽子を目深にかぶり、白いランニングシューズを履いて、片道3キロのコースを、ちょうど小学校の校門で折り返すのが、この男の日課である。
山口正義、三十七歳。身長170センチ弱で中肉中背、髪は七三に分け、最近前髪の方に来るものが。そう、少し剥げてきている。本人は今、いちばんそのことを気にしている。
瞳は大きく二重瞼で、顔は年齢の割には皺が多くて、どちらかというと猿顔だ。
ひとり雨の中を走っていると、何故か車も少なく、出くわすのは新聞配達のひとと、早朝通勤のひとくらいで、散歩をしているひとは、さすがに見かけない。アスファルトの路面を蹴る自分の足音と、雨音だけが正義の耳に響く。それで正義は、今日の自分の調子がわかる。
(よし、今日も調子ええぞ)
と。視界がたださえ悪い雨の中を、白い息を吐きながら、帽子を深くかぶって走っていれば、それだけ視界は悪くなる。しかしそれだけ正義は、走ることに集中することができる。何も考えずに、ただ走ることに。腕を大きく振って、つま先で地面を蹴り、ストライド走法で前へ前へと体重が移動するとき、正義は
(俺は生きているんだ)
と、強く思う。
6キロを、ラップ5分で走ってちょうど30分、
もう何年、この日課をこなしてきたんだろう。
正義は、走り終えてアパートのすぐ横で体操をしていると、帽子のひさしから、汗か雨水か入り混じったものが顔へ流れてくる。
びしょびしょで部屋に入るが、風呂は勿論、シャワーも無いので、湯気の出ている身体をバスダオルで拭いてから、食パン2枚にマーガリンを塗っただけのあっさりとした朝食。
あとテレビを見ながら、インスタントコーヒーを飲み終え、雨で濡れたランニングシューズに、新聞紙を詰め込んで、仕事の準備を終えると、7時半。それから雨上がりの道を、片道20分ほど歩いて近所の町工場へ。
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