第7話 広さ

「お久しぶりです。ガッソーさん」


ガッソーは筋肉質で髭面の小男で、いわゆるドワーフって奴ふぁ。ヴェルネの祖父と一時期パーティーを組んでいた事もあったらしく、年齢は低く見積もっても60は越えていると思われる。


「おお。おお。暫く見んうちに立派になって。わしん所に来たって事は……レベルが60になった訳か」


ガッソーはヴェルネと組むにあたって条件をだしていた。それがレベル60以上である。


このゲームはパーティーを組んでも、レベル11以上差があると経験値が入ってこない仕様だ。そしてガッソーのレベルは69。60未満だと、パーティーを組んだ際に大きなデメリットが発生してしまう。だからガッソーは、ヴェルネと組むための条件を出したって訳だ。


まあもっとも、レベルはまだ達成されてない訳だが……


「ああ、いえ……レベルは56なんですけど」

「なんじゃ? 60じゃないのか。では、冒険者を諦めるって事か? まあそれもいいだろう。あやつらも、ヴェルネには普通の幸せを掴んで欲しいとおもっているじゃろうからな。ひょっとして横の男は……」

「ち、違います!」


ガッソーの勘違いを、ヴェルネが慌てて否定する。


「彼はパーティーメンバーです!それに私は魔王を倒す目的を諦めるつもりはありません!」

「ふむ……違ったか」

「今日来たのは……60が間近なので、事前にガッソーさんにお伝えしておこうと思ったからです。ガッソーさんにも仕事があると思うので、いきなり行っても困らせると思って」

「ふむふむ、相変わらず気遣いのできる子じゃな。じゃが、56なら一年はかかるじゃろうに。少々気が早いんじゃないか?」


アレスワールドはレベル上げがしんどめのゲームだ。とは言え、56から60に上げるのに1年もかかったりはしない。が、このゲーム世界でなら話は変わって来る。


ゲームとゲーム世界の最大の違い。それは世界の広さである。


とにかく広いのだ。ゲームの十倍以上。しかもゲームでは情報を手に入れた場所はエリアマップで選択するだけで飛べるのに、この世界だと大都市の移動以外は普通に移動する必要がある。この村に来る時も馬車を使ってたろ? なので、とにかく移動に時間がかかってしまう。


更に敵の密度がゲームより遥かに薄いため――たぶん配置されている数が同じなため――効率化しないと、ゲームの十倍以上レベル上げに時間をかける羽目になってしまう。


なのでヴェルネソロだと、冗談抜きで、レベルを4つ挙げるのに1年以上かかってもおかしくはないのだ。まあ俺がいるからそんな事にはならないけど。


「ふふふ。そんなにもかからないわ。ねぇ、タイガ」

「初めまして。俺はヴェルネさんとパーティーを組ませて貰っている、タイガ・サイキョウと言います。彼女のレベルは、ふた月もあれば60にまで上がりますよ」


話を振られた俺は自己紹介し、自信満々にレベルはすぐ上がると答えた。

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