第2話 悪い噂
シーフは、プレイヤーのキャラクリエイトのみのユニーククラスだ。
敵からアイテムを盗める唯一の存在であり、序盤から中盤にかけて戦闘能力は低めとなっているが、レベル70以降に覚える優秀なスキルを習得する事で強キャラの仲間入りを果たす優秀なクラスである。
◆◇◆
「うせろ」
「声かけんじゃねーよ」
「あんたみたいなクズと組む訳ないでしょ」
「くそが……」
苛立ちから、俺は舗装された道を蹴り飛ばす。
勇者パーティーを追放されてから既に一月ほど経つが、パーティーを組むどころか、俺はまだメンバーの一人すらも見つかっていない状況だった。
それだけ時間をかけて何故見つかっていないのか?
理由は簡単。俺の悪い噂のせいである。セクハラにモラハラ。パーティー資金の使い込み。そんな根も葉もない噂が、冒険者界隈には広がっていたのだ。
広げたのは言うまでもなく、俺を追い出した勇者パーティ。そして――大陸最大規模を誇るエステス教会である。
エステス教会が俺の悪い噂を広めたのは、追い出した奴らを公認の勇者パーティーと認めたためだ。
通常の冒険者なら、弱さが理由でメンバーを追放するのは普通の事である。命を賭ける商売なのだから、弱い奴を抱えてでも戦えなんてふざけた事を口にする奴はいない。だが、エステス教会公認の勇者パーティーなら話は違ってくる。弱者の救済を謳っている宗教の公認勇者パーティーが、弱さを理由にメンバーを追放したのでは外聞が悪い。
だから俺を悪者にしたのだ。自分達の都合の為に。
「あいつらには良心ってものがねぇのかよ。ここまで屑だったとはな」
エステス教会にも当然腹は立つが、それを当たり前の様に良しとしている元メンバーには心底うんざりさせられる。
確かに、俺は戦闘面ではあまり役に立っていなかったよ。レベルが上がるごとに、それが顕著になってもいたのも認める。だが、俺のスティールによって資金面では大きく潤ってたし、スキル【
そう、最低限の仕事をしていた自負があった。だからこそ、急な追放に驚いたわけだが……
俺が完全な寄生だったなら兎も角、最低限貢献していた人間をあっさり切り捨てて、しかも悪い噂を流す事を良しとするとか……流石に最低すぎだろ、あいつら。俺の人を見る目のなさに泣けて来るわ。
「ちっ……どうしたもんか……」
ソロ攻略という選択肢はない。それをするには、シーフは弱すぎるのだ。一人では攻略どころか、レベル上げすら難しいレベルと言っていい。
あ、因みに、レベル差がある敵からは経験値が入らないシステムになっている。このアレスワールドは。なので、格下を乱獲してレベルを上げるって手段はとれない。
「こんな事なら究極超人にしとけばよかったな」
究極超人はソロ向けの、単騎無双キャラだ。こいつならソロでサクサクラスボスまで進めた事だろう。明らかに強さの次元が違うからな。
じゃあなんでそいつにしなかったのか?
簡単な事である。ラスボス戦で死ぬ可能性があったから。そう、とんでもなく強いこのクラスでも、ラスボス戦では一定確率で死亡するリスクがあるのだ。
――回避不能の範囲即死技をラスボスが使ってくるため。
まあ即死確率は10%とそれほど高くはないのだが……10%で死ぬって考えた時、それを許容できるかって話である。俺には無理だ。十回に一回は死ぬとか。だからそれを唯一防ぐ手立てを手に入れられるシーフを選んだのである。
「まあそれは今更だな。しかし、どうしたもんか……」
今のままだと、まともな奴は俺の勧誘には乗ってこないだろう。もちろん既にあるパーティーに入り込むってのも無理だ。
「ふむ……評判が悪くても組んでくれそうな奴を狙うしかないかな」
実は一人、心当たりがあった。勇者パーティーに居た頃から認識はしていたのだが、俺の中では馬鹿、もしくは偏屈っぽい人物というイメージがあるので、あんまり進んで誘いたくはないのだが……
「銭腹は代えられないか。シーフとの相性も悪くはないしな」
何故なら、そいつのクラスは垂れ流しと言われるほど金銭効率が悪いからだ。
金稼ぎの雄たるシーフとはまさに相性ピッタリと言えるだろう。
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