その後 第3話 あとちょっと

 岳が帰ってきてから。一旦は安心したはずなのに、今は何故か不安で落ち着かない。

 ソワソワ、ソワソワ…。

 岳が目の前にいる時はいいが、一旦、姿が見えなくなると不安になるのだ。

 家の中にいる時は、絶えずその姿を目で追い、こっそり見える範囲へ移動したり、挙げ句の果てについて行ったり。まるでストーカーだ。

 が、外の仕事に出てしまうと、どうしようもない。逐一、メールや電話連絡を入れるわけにもいかず。

 時折、岳から送られてくるメッセージを頼りに、無事だとホッとする日々。


 これは、いかん。


 そうは思うのだが、やはり岳が心配で気になってしまう。

 皆がいる時は平静でいられるが、いざ岳と二人きりになると、一気にたがが外れてベタベタしまくり。


 俺って、こんなんだったけ?


 いや、違う。今までだってずっと一人が長かった。慣れっこだったはずの環境で。

 なのに、こんなになってしまうのは、やはり今回の出来事が尾を引いているのだ。


 いなくなったらと思うと不安で。


 岳はきっと気づいているだろうけど、何も言わない。だから余計に甘えてしまう。

 いかん! と、思うのだが、今の俺には必要な事だと思った。しっかり甘えて、充電して。満足するまでそうしたい。


 岳がいいって言うなら…だけど。


「岳…」


「なんだ?」


 俺は今、岳の膝の上にいる。

 詳しく説明すると、事務所のソファに座って、ローテブルの上に置いたノートパソコンで作業している岳の膝の上に、頭を乗せ寝そべっている。

 膝に乗り上げたい所だが、そうなると岳が作業出来なくなる。仕方なく、膝を枕にするにとどめた。

 俺は仰向けにゴロンと横になると。


「…俺、ちょっと甘え過ぎ、だろ?」


 そんな俺を見て、岳はたまらずプッと吹き出し、ヘソ天…と呟いた。


 ヘソ天?


 意味が分からない。ゲソ天でもトリ天でもない。岳は俺の腹の上をポンと軽く叩いた後、こちらに視線を向けて。


「ちっとも。もっと甘えてもいいくらいだ。──ずっと、そのままでもいい…」

 

 甘い笑みを浮かべてそう言う。

 

「ふーん…。そっか」


 俺は頬が熱くなるのを感じた。

 岳が甘えさせてくれるなら、存分に甘えようと思う。岳はそのまま、俺の頭を撫でる。


 もう少し、あとちょっとだけ──。


 俺の我がままに付き合って欲しい。

 


 ー了ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Take On Me 4 マン太 @manta8848

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ