おこがましい

白川津 中々

◾️

報われない。


ずっと誰かのためにと思い生きてきて、その度に裏切られてきた。身を粉にして、奥歯を噛み締め、心を震わせて、誰かのためにつくし、誰かのために犠牲になって、誰かのために血を吐いた。だが、誰からも、誰一人として、俺に心の底から「ありがとう」と言ってくれる人間はいなかった。誰もが俺を利用し、都合よく切り捨てた。


「それはお前が助かりたいだけだからだろう」


ある日、そんなことを言われた。

自身の薄弱を「助ける」という行為で蓋をして見えないようにし、自我を保とうとしていると嘲笑されたのだ。それに対して俺は反論の弁がなかった。彼の述べる通り、俺は誰かを助ける事で自身に価値をつけていたと、ようやく理解できたからだ。

自分の存在価値のために誰かを助けてきたと自認すると、どうにも愚かに思えた。偽善。そんな言葉がしっくりとくる。俺はこれまでずっと、誰かのためなんかに生きてこなかった。自分のために、自分自身を保つために、誰かに依存していただけだったのだ。


それに気がつくと視界が晴れ、嫌でも自分の無価値に目がいった。誰かに認知されなければ生きている意義がなくなってしまう。自意識と自己欲求。承認への渇望が、腹の底に渦巻いていた。そんな己をどうして認められようか。他者依存の脆弱な自我が、ただただ、空虚で、空々しい。


それから俺は、人のために生きるのを辞めた。

価値は、未だに分からないままである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おこがましい 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ