固定化人類「ヒトガタ」

桜街 スピカ

case1「催眠の効かない」

バチン!


何かが途切れるブレーカーのような音に、俺は思わず目を開く。


「………ん?」


違和感。


ここはどこだ?


辺りに目をやってみる。


眩い光に、薄暗い部屋。


点滴パックに、手術の用意。


真横のモニターには、正常な様子の心電図が映し出されている。


病院?


手術室?


そうだ。


俺は、確か通学中に意識を失って……


車にでも轢かれて、今緊急搬送されてきただけなのか?


いや、それにしては誰もいないのが気にかかる。


それにさっきの音は……?


色んな考えが頭を駆け巡る。


辺りを見渡して分かるのは、尋常ではない雰囲気だけ。


「とりあえず、はやくここを離れないと……」


恐怖を感じた俺は、急いで手足を動かそうとする。


しかし、その手足が動くことはなかった。


----拘束されている。


何故だ?


普通の手術であれば、こんな状況にはまずならない。


それに気づいてしまい、俺の身体は恐怖で強ばっる。


「おや。起きてしまったんですか。」


誰だ?


誰もいないはずの薄暗い手術室から、とてつもない冷気を感じた。


足音だ。


誰かが、歩いてくる。


「う……うわぁぁぁ!!」


恐怖に従い、俺は必死に逃れようとした。


すると。


「おっと。一旦落ち着いて下さい。」


この冷気と同じくらい冷徹で。


その場にいる、あらゆる生き物を硬直させるような声が聞こえた。


「何も、取って食おうという訳でもないのですから……」


何故だろう?


ここまで「生命の危機」を感じるのは?


この男を眼前にして、思う。


この男を俺は知らない。


けど、それが恐怖の理由にはならない。


だって。


見る限りこの人は、おそらく30代くらいのただの成人男性だ。


白衣をしているし、普通に考えれば病院関係者のはずだ。


姿形も人間となんら変わらない。


なのに。


生命として「格が違う」と身体全体が警笛を鳴らす。


人間がゴキブリに恐怖を感じるのと、似たような感覚すら覚えてしまう。


「……ううむ。しかし、私も驚きです。ここまで、怖がられたのは貴方達兄妹だけですよ…… 不思議なものです……」


催眠が効かなかったのか?など意味不明な言葉を呟きながら。


目の前の白衣の男は、淡々と言葉を並べる。


「おっと。自己紹介がまだでしたね?私は貴方の父親……人呼んで、Dr.freeと申します。以後、お見知りおきを。」


(………はっ?)


「……驚くのは無理ないかもですね。君は、僕の息子になったばっかりですから。」


……何を、言っているんだ?


気が、動転する。


「今、拘束具を外しますね。」


そうして、気味の悪い男に拘束具を外して貰った俺は。


冷ややかな手術室の床に、足を着けた。


「突然こんなことになって、怖いですよね。」


どこからか来る冷気に、彼の白衣と白髪が靡く。


「教えてあげましょう。」


「……まずは、その手に持っているモノについて。」


動転した頭で。


ようやく、気づいた違和感。


手に握られているコレは……


「……毛布?」


「その通り!」


奴はにやついた顔を崩さずに、俺に言う。


「君は、今日から毛布と人間の融合体…… 通称「ヒトガタ」と呼ばれる存在に生まれ変わったのです!」


……どういうことだ?


俺は。


「ようこそ、個体識別番号 No.1536。 僕達の家に……」


何になってしまったんだ?

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固定化人類「ヒトガタ」 桜街 スピカ @spica427

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