第4話「待ち合わせでログイン」
直樹は光が丘IMA東館地下駐車場に停車して、大きく深呼吸をした。いよいよ始まる「リアル恋愛シミュレーションゲーム」。その緊張と興奮と初めての女子とのデートにいつもの冷静さを欠いてた。
ポケットからスマホを取り出し、アプリを立ち上げると動画サイトには「第一チェックポイント・光が丘駅に到着」とすでにGPSが直樹の行動をサイト場に表示していた。
「凛はまだ到着していないみたいだな、他のメンバーはログイン済みか・・。」
気持ちを落ち着かせるかのようにシステム稼働の様子を独り言で言っていた。
「なんか、これ見ているだけでドキドキする。」
「自分が待ち合わせしているみたい。」
「あーここ、地元じゃん」
直樹は他のメンバーのコメントに目を通し、「お前らより俺の方が緊張してるよ」と笑った。
直樹は歩き出し、近くのスターバックスへと向かった。
まだ、10時15分。待ち合わせの時間までには15分ほど余裕がある。
「まだ時間あるな。店内でコーヒでも飲みながら「デートマナーでも復習しておくか」
地上に出て、スターバックスまで真っ直ぐの道を直樹は歩き出した。スターバックスの店の前で直樹はスマホを目の前に構え、録画ボタンを押す。すると「アクション:男子は手を繋いで車まで女子をエスコートすること」とこのチェックポイントですべき課外が表示された。
「全く、よくできているよな。ここまでは完璧だなこのプログラム」と録画されている事も忘れて呟いてしまった。
「それは何より、でもこの企画、僕には刺激強すぎかも。」とコメントに流れる。
「それは俺も一緒だよ、でも、リアルタイムでコメントが流れるのは心強い」そういい残して後直樹は一旦録画を停止した。
まずは正面のカウンターのなかにいる店員に店内での撮影許可を求める。店員は快く引き受けてくれた。そして、再び録画ボタンを押してゆっくりと店内を見渡す。2面の壁が透明のガラス、床や天井は木目を生かした板張り。椅子やテーブルはシンプルな木と黒く塗装された金属でできている。比較的空いている店内で、一際輝いている女の子をスマホのモニター越しに見つけた。
その女の子は、ロング丈のキャメルコート、ホワイトの 薄手のニットセーター。ストレートシルエットのデニムパンツ。黒いサイドゴアブーツを履いていた。そして紅茶の赤みとシトラスの黄色がグラデーションを成しているゆずシトラスティーのガラスの器を、手を温めるかように抱え口元に近づけて窓の外を眺めていた。そう、凛である。
直樹は凛が自分より早く到着していたことに驚いていた。凛はまだ、サイトにはログインしていなかったのである。直樹が急いで近寄ると、笑顔で小さく手を振った。そして、直樹がスマホを目の前に構えているのを見て、「あっ!」っと慌てて自分もスマホを取り出しアプリを立ち上げログインする。凛も直樹を撮影し始めた。
「お待たせ。割と早くに来ていたんだね。」と直樹は凛の目の前の席につく。
そして、スマホリングをスタンドがわりにしてテーブルの上に置き、凛の方へ向けた。凛も「あ、そうやって撮るんだ」と真似をしているが、自分が映るように設置してしまう。
「あっ、自撮りスタイルにする?」とそれを見ていた直樹が、すかさず自撮り用の設定に変える。
凛は「え?直樹君を撮ろうと思っているのだけれど・・これで映ってない?」と再びスマホを覗き込んだりいじったりしている。
「大丈夫、それでいいから」と直樹。凛は再びニコニコしながら直樹を見つめる。
「このお店、地元だからよく来るの?」と直樹が尋ねる。
「全然来ないかな?このお店がオープンした時にお父さんに連れて来てもらただけかも」と凛は店内を見渡す。
「そっか、地元ってそんな感じだよね。」
「うん、駅の周りは繁華街だけれどあまりここで遊ぶことは無いかなあ」
たわいも無い話をしながら注文したコーヒーを飲み終え、直樹は腕時計に目を向けながら言った。
「車をこの近くのショッピングモールに止めたんだ、歩いて5、6分。ここでの課題が「手を繋いでエスコート」ってあるんだけれど大丈夫?」
それを聞いて凛は恥ずかしそうに俯き「え?うん。今日は彼女役だから・・・。」と返事をする。
今朝の空はよく晴れていて気温は少し低めだった。二人は店の外に出た。並んで自撮りをしようと直樹は手を伸ばしてスマホを構えていた。課題達成のために色々とアングルを探っていたのである。
「うーん、これじゃ『手を繋いでエスコート』のシーンが撮れないなあ。ねえ、ここに僕のスマホを置いて録画ボタンを押すから、そのあと手を繋いでこの道を10mくらい歩いてくれないかな?」
「いいよ。わかった。」明るく凛が答える。
その場面がサイトの動画にあがる。
「わーっ。嘘くさー。」
「直樹作りすぎ。」
「こんなこと私でもしたことない」
「ちょっと逆光かも」
とみんなのコメントが流れる
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