第一章 最終日

「もう帰って大丈夫です。春休み中でも気は抜かず、勉強と宿題はちゃんとしてくださいね。」短いようで長かった中学一年生の生活が終わった。初めてこのクラスに来たとき喋った人とは少し疎遠気味だが、いつも一緒に話せる友人もできて本当に良かった。部活も結構頑張ったし、勉強も焔向と戦えるくらいにはがんばってきた。「ゆーう、一緒に帰ろうぜ。」「焔向くん…全然いいよ!」同じ部活の焔向くん。焔に向かうって書いて『ひゅうが』って読むらしい。すごくかっこよくてよく覚えてるんだよね。一緒に筋トレとか走ったりとかしてくれる優しい子。お昼も一緒に食べたり結構仲良くしてもらったな。でも1年間ずっと一緒にいるけど、唯一学食を一度も食べなかったのが少し悔しい。ブラックラーメンなるゲテモノメニューが話題になっていた時にでも食べればよかったな。そんなことより早く教科書取んなきゃな。ロッカーの鍵を閉めて早足で教室に戻る。「ふぅ…」「なぁ柚迂。来年同じクラスになれると思うか?」「焔向くん…なれたらいいよね。」「なに、いやなのか?」焔向はいじらしくこちらの顔を覗き込んでいる。きっと考え事してて上の空だったからだよね。きっと来年不安だろうなとかこっちのこと考えてるんでしょ。やっぱ優しいな、焔向。「そんなわけないよ!だって僕焔向くんと一緒になりたいってずっとカミサマに祈ってるよ。」「逆にちょっと怖いかも。でもそうだよね部活の時だけ会えるもん、俺柚迂ともっと話したい。」「わかる!同じクラスの方が絶対楽しいよね。」「だな。っとそろそろ帰らない?妹と遊ぶ約束しててさ。」「もちろんいいよ。」焔向とちょっとした会話が毎日できるってやっぱ嬉しいな。休みの期間だとしばらく直接会えないし、声も聞けないからまたすごい寂しくなるな。

「それじゃ行こうか。」「うん!」最終日特有のずっしりと重いリュックを勢いよく背負う。焔向は結構前からものを持ち帰っているらしく肩掛けのカバンを使っていた。「その肩掛けすごい楽そうだね。僕も使おうかな。」「あぁ、これ?」そういってカバンをひょいと顔の近くへと持ち上げた。「これ妹の借りてるんだよね。ほら、ここ。」カバンの紐の裏側に『白ノ風真』と、書いてあった。とても丁寧な字で、きっと焔向くんが書いてあげたんだろうな。「そっか、僕も兄妹がいたらなー。」「だったら俺の家に来ればいいのに。そしたら違うクラスでもいっぱい話せるじゃん?」「ふふっ、確かにね。」そろそろ駅に着いちゃうな。同じ方向で、同じ駅で、同じ家だったらずっと話せるのかな。「じゃあ、ここで。」「またね!」僕が大きく手を振ると、ふっと優しく微笑んで軽く手を振り返してくれた。階段を降りる時にふっと寄れる長い髪とブレザーが綺麗だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日曜日 00:00 予定は変更される可能性があります

平凡な告白 かめ日記 @nodoka1014

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ