第12話 賛辞

 褒められることが好きだ。人に褒められたいがために生きていると言っても過言ではない。誰かに褒めてもらった日には家に帰っているときやお風呂に入っているとき、お布団に入ったときなど何度もその言葉を反芻して、言われた場所や状況も含め忠実に脳内で再現し余韻に浸りニヤニヤしてしまう。落ち込んだときには過去の褒められた記憶を検索して精神状態を保とうとする。

 特に嬉しいのは「面白いね」、「可愛いね」、「○○ちゃんらしいね」、「○○ちゃんって変わってるよね」の四天王だ。まず「面白いね」は本音率が高いと思う。褒め言葉というのは本当に良いと思っているのかその場を取り繕うためにお世辞で褒めているのかが容易に判断できるものだと思う。私調べでは可愛いねの約20%は本音で約80%がお世辞であるのに対し、面白いねというのはその逆で、約80%が本音で約20%がお世辞ではないかと思う。だから面白いねというのは本当に面白いと思って褒めてくれているような気がする。

 だからと言って「可愛いね」と言われるのが嫌かと言うと全くそうではなく、やはり可愛いねは他とは別格の褒め言葉だ。男性は、男性への褒め言葉として一番に浮かぶ格好いいではなく可愛いという語で褒められると釈然としない人が多いと言うが、私ならば格好いいよりも可愛いのほうが上位の褒め言葉として用いると思う。可愛いは単に愛らしいという意味だけを表すのではなく、あらゆる好意的な褒め言葉を包含した特別な意味があると思う。可愛いという褒め言葉が意外と一番嬉しい言葉の一つかもしれない。

 「○○ちゃんらしいね」、「○○ちゃんって変わってるよね」というのも最上級の賛辞の一つであり捨てがたい。なぜならこの二つは、うわべの褒め言葉としては使われにくく、自分の特性を分かってくれている良き理解者が言ってくれる褒め言葉だからだ。しかも変わってるねというのは一見すると否定的な発言にも捉えられるので、心理的距離が近いからこそ言える言葉だし、相手の機嫌を損ねしまうかもしれないというリスクも負って褒めてくれているというのが伝わってくる。

 でも結局のところ、褒められて嬉しいと思うか否かはどんな人に褒められたかによると思う。自分が好意的に思っている人が褒めてくれたらどんな言葉でも嬉しいし、好意的に思えない人に褒められたらどんな言葉も嫌味やお世辞にしか聞こえないのだろう。

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