ーー病院でのパンデミックから数時間後ーー

リアム・ウォーカーが目を覚ましたのは、異常なほどの静けさと不安に包まれた精神病棟の病室だった。意識が戻ると、頭がずきずきと痛み、全身に重い倦怠感が広がった。周囲は薄暗く、ところどころ壊れた光源がちらついている。彼はぼんやりとした視界の中で、自分がどこにいるのか理解するのに数秒を要した。

病室の壁に目をやると、そこにはいつも通りのモニターが並んでいるが、その数字は不安定で、いつもと違う異様な感じがする。リアムはベッドの上で体を起こし、周囲の音に耳を澄ませた。遠くからはかすかな悲鳴が聞こえ、時折、何かが衝突する音が響いてくる。

「ここは…一体、何が起きているんだ？」リアムは低い声でつぶやき、額に手を当てると冷や汗が流れた。

目を凝らして周囲を見ると、いくつかの病室が異常に静まり返っており、普通の医療機器が散乱しているのが見えた。どうしてこんなことになっているのか、何が起こったのか、全くわからない。ただ、確かに自分が目を覚ました場所は、エデン内の精神病棟だったはずだということは理解できた。

リアムはベッドから降り、ひとまず病室を出ようと決心した。彼が足を踏み出した瞬間、目の前でドアが大きな音を立てて開く。突然、目の前に現れたのは、顔色が異常に青白く、息が荒くなった看護師だった。彼女の目は完全に虚ろで、まるで理性を失ったかのように見えた。

「お願い…助けて…」看護師は口を震わせながらそう言い、次の瞬間、彼女はリアムに向かって無意識に手を伸ばしてきた。その手は、まるで本能的に彼を掴もうとするかのように速かった。

リアムは驚き、後ろに退いたが、すぐにその異常な状況が明らかになった。看護師の顔には、ひどく歪んだ恐怖と狂気が浮かんでおり、身体が震えながらも制御できない動きで彼に迫ってくる。

「おい、何が…！」リアムは声を荒げ、必死で後ろに下がりながら周囲を見回した。さらに他の病室の扉が開き、次々と異常な動きで歩み寄る患者たちが現れた。目は完全に見開かれ、身体は痙攣しながらも、ただ暴力的に手を伸ばしてくる。

彼はその瞬間、思わず背筋が寒くなるのを感じた。これがただの病気や事故ではないことを、直感的に理解した。

「何が起こってる…？」リアムは震える声で呟きながら、ドアを閉め、部屋に立て籠もった

彼の心には、エデン内で何か恐ろしい事態が進行しているという不安が広がり、彼自身もその渦中に引き込まれていくことを、無意識のうちに感じ取っていた。