第一話 いなくなった兄
私が幼い頃に両親は亡くなった。
私が死と言うのを理解できるぐらいの年齢になって聞いた話で、火事で家が燃えて逃げ遅れた私を助けに両親が死んだらしい。
私も少しは覚えている。
咄嗟のことで頭が理解していなかったが、本能か何かが破裂したのだ。
気がついていたら訳も分からず泣いていた。ただ泣き叫ぶしか出来なかった。
母親の愛を
父親の優しさを
もう、もらえないのだ。
そんな悲しみが身体にしみこむように着いてきて、鎖のように付いてきて、鋭い針の如く突いてきて、悪霊の如く憑いてきた。
私は涙が止まらず、鳴り響くサイレンが虚しく響いていた。
そんな私を兄は慰めてくれた。
私を心配させないために、涙を拭いながら
「ぼくが一生守るから。大丈夫だよ。」
兄の目は充血して、頬は真っ赤っかだ。
兄は泣き叫ぶことしか出来なかった私に対して守ると言ってくれた。
私なんかに。両親を殺した、私に。
多分、私はここから兄のことを好きになってしまった。
だから強く記憶に残っているのだろう。
どうしようもなく。
これがなかったらあの出来事は無かっただろう…
話を戻そう。過去を振り返っても不可逆には抗えない。
その後私たちは親戚の家をたらい回しにされて生きてきた。親戚とは元々無いような縁しか無かったが兄は私のために色々と頑張ってくれた。
私はその様子を見るぐらいの余裕を持ち合わせていなかったが、兄の必死な背は覚えている。
高校生になったら親戚の家も追い出されたのでバイトを何個も掛け持ちしながら私達はアパートのボロい部屋で生活していた。
とある日、これまでたまっていた物が、何かの拍子で出てきたのか、或いは疲れたのか、兄は家に帰ってきて
「ごめんね。俺がもっと…もっと…」
と呟き、俯き、泣いていた。
何でそんなに泣いているの?
私は幸せなのに…
「お兄ちゃんが生きているだけで大丈夫だよ。」
本心から出た、無意識に吐いた言葉。
そう伝えると兄はポンポンと私の頭を撫でて、抱いてくれた。
「ありがとう…こんな俺でも…赦してくれて…」
突然のことに固まってしまったが、私はとても嬉しかった。
兄と一緒なら…何でも出来るような、そんな気がした。
私と兄は大体7時に家を出て高校に行く。
夏に近づいていくことを肌に降り注ぐ太陽で感じ取る。
「お兄ちゃん今日もバイト?」
学校に行く途中、そんな毎日聞いている、返答の決まっている。当たり前のことを聞く。
「うん。大体11時ぐらいに終わるから、先にご飯食べてて良いよ。」
今日もまたこれだ。もうちょっと自分の身を顧みてもいいのに。
その激しい思いやり少しの苛立ちを足下の小石に蹴り歩きながらぶつけた。
「少しはさ、休んだら?私もバイト出来るようになったから。今の生活でもきついんだから。」
「いや、大丈夫だよ。」
兄はバイト絡みになると前々からこう流してくる。
この会話に意味が無いと分かっていても、日常を感じてく。
校舎内に入り、靴箱に乱雑に収納して兄に着いていく。
その後は兄は四階、三年生の教室で別れる。
私は二階の一年生のクラスに行く…
と見せかけて階段からこっそりと上ってすぐの廊下を見ると、
…早速兄が虐められていた。
兄は優しい性格だからか、それとも体型が痩せて穏やかに見えるせいか、舐められやすく、気付いたら中学から虐められていた。
そんな状況を先生に言っても話一つも聞いてくれやしない。
それを周りの奴らは知っているからか、またいじめられるの繰り返しだ。
私は兄を虐めている塵カス共に
「兄を虐めるな。」
するとそいつらは示し合わせたかのように逃げていった。
この前、兄が怪我をしてそれがそいつらだと分かりずっと治しているが、それがおかしくて影で笑いものにしている。阿呆らしい。
そいつらの逃げる様を見ながら、兄が話しかけてきた。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。俺もほら、ただ怒られただけだし。」
真っ黒なページばっかのノートを拾いながら明るい声色が私の心を貫く。
「嘘つかないでよお兄ちゃん。」
「…」
「私が一生守るから。お兄は嘘をつかないでよ。」
兄は根負けしたのか、
「わかったよ。うん。ありがとう。」
と言った。私は心配しながら戻ろうとすると兄が、
「鋳瑠華。」
「なに?お兄ちゃん?」
呼び止められて振り向くと、何やら表情を硬くした、真顔の兄がいた。
「今日、バイトから帰ってくるまで起きててくれないか?大切な話がある。」
「わかったよ。」
兄は私の言葉を聞き、微笑んで早く二階に行くように急かしてきた。
そろそろやめ時かな。アレも。
そんなやりとりをしたその日。
私が授業中のとき。
大嫌いな英語の授業。
イジメが横行しているような学校=まともではないのは当たり前で、クラスメートは隠れて思い思いの事をしている。
スマホやゲーム、菓子、大声で謳う…etc.と、まあ酷い。
そんな無法地帯を無視して教師は黒板に意味の分からぬ筆記体を書き連ね、細々とした声で解説している。
いつものつまんない授業の時間を窓を見ながら耐えていた。
上空の雲が緩やかに形が崩れるのを見届けている時、
上ののクラスが騒がしい音がした。
クラスの皆も五月蝿い天井を眺めてざわついている。先生も黒板を書く手を止め、どうしたんだと一瞬だが困惑していた。
暇すぎて何があったか、教科書を盾に連絡を取ろうとしたが、全然つながらない。
兄は真面目な人でこういうとき連絡するとすぐ返してその後授業中何やっているんだと怒る。
でも反応が、遅い。
私たち一年生のクラスは二階。
兄のいる三年生のクラスは四階。
前、返信が返ってこなかった事例は虐められているときだけだ。
兄がまた何かひどいことを授業中にされているのか。
しばらく待ってみても来ない。
ここまで酷いのはないから相当大変な目にあってるのかな?
不安に不安を重ねて、頭の中がショートしつつ、気付いたら階段を上っていた。
階段を蹴るその二つの音が私の脳に響く。
それと同時に足の衝撃とだんだんと聞こえる四階での騒ぎが強くなる。
上から聞こえる話は真実か確認しようと身体のありとあらゆる部位が、跳ねる。
その一つの音。後ろから担任の先生のこれ以上面倒ごとを増やして欲しくないであろう悲しみの怒鳴り声が聞こえ、追っかけてくる。
私が担任に捕まらずについたとき、兄のいる三年二組には人たがりが出来ていた。
その隙間を縫うかのごとく移動していく。
集団の顔ぶれの中には三年二組の塵カス共や兄はいない。教員しか眼に映らない。
私はその教員が話していることに心から否定しつつ願いながら、その人混みから抜け出した。
そして私は見た。
クラスが空っぽになっていた。
最初は頭が追い付かなかったが、すぐに気付いた。
兄がいない。
否、兄だけではない。
兄を虐めている塵カス共も、
そんないじめを見て見ぬふりをしている
共犯者も、
使い古された机も椅子も、
全部。
全員トイレに行っただけかと思ったが違う。
スマホでGPSを見ると位置がおかしい。
オンラインとオフラインを行ったり来たり繰り返していて、位置が更新され続けている。
流石におかしすぎる。
クラスの床には不思議な模様が広がっており、異質な空気が蔓延っていた。
周りの教員の話し声から、教室を見るまでも分かっていた。
兄が、お兄ちゃんが、いなくなってしまったと言う事実を
私の心の安心が、いなくなってしまった。
頭がこんがらがりながら倒れてしまった。
誰かの悲鳴が聞こえた気がする。
目が覚めると保健室で、あの後かなり寝ていてらしい。
先生が今日は帰れるか。と尋ねてきたが笑顔を作り無事を示した。
その後、帰宅の準備をして、すぐに帰ることとなった。
警察が原因を究明するらしい。
私はとてつもなく悲しみに暮れていた。
何故兄が消えてしまったのか、
何故塵カス共とっしょにいなくなってしまったのか。
何故私をおいていったのか。
「わっ!」
家から帰ってきたとき、地震が発生してただでさえボロいアパートが揺れて落ちてきた物がまるで今日の惨状を締めているようにみえた。
兄がいなくなったことを受け入れなければ。
兄の部屋を片付けて、未来を見ないと、、
夕食をつくった。いつもの癖で二人分つくってしまった。
今の私には二人前でも、一人前でも、食べれそうに無い。分かっているのにつくっていた。
やっぱり、受け入れれないや。
「なんで泣いているのかなぁ?お嬢さん。」
怪しい口調がドアから聞こえる。
いつもなら怯えに怯えるか、蛮勇を掲げるかの二択だが、もう、何だか考えられなくなっていた。
誰かにこのことを聞いて欲しかった。
気付くと狭いけど安心ので来る空間に招いてた。
私は聞き取れるのか怪しいぐらいの小さな声で
「おにい…兄が急に消えた。神隠しに会った。」
とティッシュで顔を覆い、嗚咽が混じりながら答えた。
「それは召喚されたのかもしれないねぇ。」
間抜けな声が出た、召喚?何だそれ。
といい召喚について話してくれた。
「召喚ていうのはねぇ、お嬢さん。急に異世界に連れて行かれちまうってことだ。」
男は人差し指と中指を交互に動かしながらその手を上に持っていった。
「…そうですか。」
「おや。お嬢さん意外と信じやすいんだなぁ。まぁ余計なことか。まぁいい。たまーにあるんだよ。法則はあるんだろうが、なぁ。」
災難だったなといらない慰めをしながら、こっちをチラリと見た。
「兄は、どこにいるんですか?兄は、ねぇ?」
と私は男を責めてしまったが男は気にせず待ってましたと言うかのごとく、
「夜にそのお兄さんが転移した場所に行くといい。学校?だったっけ。まあ、そんなリスクのあるのに助けたいのかもう一度考えてから行くといい。行くなら今日の夜ぐらいにな。」
と言い、じゃあと歩いて学校方面に歩いて行った。
私はその男の話した召喚というものが気になってしまい準備をして、夜の学校へと行った。
夜の学校。
それだけで私は怖いが二年二組前には恐ろしいモノがあった。
モノと形容していいのか怪しいぐらい黒色で
幼児のお絵かきのような、これが深淵と言われたら納得する程に見惚れてしまう。
そこが男の言った異世界につながる門だと理解できた。
男が別れ際に言った言葉を思い出した。
「そんなリスクのあるのに助けたいのかもう一度考えてから行くといい。」
リスク、途轍もなく過酷で困難な茨の道なのだろう。
それでも、それでも。私は、兄を助けたい。
私は、
兄の
絶対に助けに行く。
覚悟を決め、渦巻き続ける深淵へと入っていった。
――――――――――――――――――――
鴨葱 鋳瑠華 (カモネ イルカ)
兄に対してだけで、ぶりっ子全開で喋る。
兄以外は興味が無いので無で喋る。
最近は悩み事がある。
兄のことを未だにお兄ちゃんと言ったりする。
黒髪のセミロングで身長は169超えるかギリギリのライン。兄の身長を超さないように筋肉をつけ始めた。
十六歳で少し胸が小さいことがコンプレックス。
(ラッキースケベを兄に対して起こせない
ため。)
――――――――――――――――――――
どうも読んでくれてありがとうございます。
作者のsansooisiiです。
この作者はは不定期更新なのでゆっくり気長に待ってもらうと幸いです。創作物をつくるのに向いていない人類ですが、よろしくお願いします。
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イルカモネ× sansooisii @sansooisii
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