4話 彼女に恋してる

 自分の気持ちを確かめるためには沢村さんと話をしなければならない。

 しかし私はそのタイミングを掴めずにいた。

 なにせ彼女は人気者で常に周りに人がいるのだ。そんな状況だと話しかけにくい。

 私が気軽に人に話しかけられる性格なら、もっと友達が多いはずだからね……。

 話しかけるタイミングを見つけたのは放課後になってからだった。

「じゃあまたねー!」

「うん、またね」

 沢村さんが挨拶を終えるとようやく周りから人がいなくなる。今がチャンスだ。

 彼女は帰宅部だから、この後は帰るだけのはず。

 杏に聞いて今日は部活の助っ人はないということは調査済みだ。ありがとう、あんず

「あの! 沢村さん!」

「ん?」

「その……」

 緊張して口の中が乾く。上手く言葉にできない。

 元々話すことは得意ではないけど、こんなにも緊張することはないし、話せないことは今までになかった。

 焦れば焦るほど言葉は出てこなくなる。

「伊月さん、どうしたの?」

「えっと……」

「場所変えようか」

 沢村さんの言葉にコクリと頷く。

 彼女は私が頷いたことを確認すると、歩き出す。私は沢村さんから一歩距離を置いてから付いて行く。

 途中で廊下ですれ違う人達が沢村さんに声をかけているところ見ながら、彼女は自分とは正反対のように思う。

 私が沢村さんに向けているこの感情が恋愛なのか確かめたい。

 だけど確かめるってどうやればいいんだろう?

 考えていると、昼休みに杏と一緒に行った空き教室の前まできた。

 本日二度目である。

 ここってそんなに頻繁に使われるところなのだろうか。

「うん、空いてるね。伊月さん、どうぞ」

 私は沢村さんに促されるまま、教室へ入って行く。

 ガチャと鍵を閉める音。その音で沢村さんと二人っきりという状況をより意識して、緊張が高まっていく。

「それでなにか用かな?」

 沢村さんはにこにこと笑みを浮かべていた。

 そんな沢村さんの顔を見ていると、顔の熱が上がる。その熱に浮かされたように、私は口を開いた。

「その!! 私、あなたのことが好きかもしれなくて!!」

 ってちがーう!!!! 私はなにを口走っているんだ!?

 自分の言葉に動揺し、彼女の顔が見れなくなる。

「それって告白?」

 沢村さんは動揺した様子もなく、落ち着いた様子で聞いてくる。告白され慣れてるようで、余裕を感じる。

「え、えっとじゃなくて!!」

 慌てて否定する。自分の気持ちもまだ確認出来てないのに、告白なんて早すぎる。

 私はすぐに言い直した。

「その! 沢村さんと仲良くなりたくてですね……!」

「ふふっ、クラスメイトなのになんで敬語?」

「き、緊張して……」

 テンパって言葉が出てこない。

 頭ではぐるぐると沢山言葉が出てくるのに、言葉に出来ないもどかしさを感じる。

 そんな私の様子を見て、沢村さんは優しく言葉をかけてくれる。

「仲良くなりたいなら、友達ってことでいいかな?」

「いいの!?」

 私は舞い上がってしまいそうな気持ちを抑えてそう言った。抑えられてないかもしれないけど。

「わたしも伊月さんと話したかったから」

 その言葉にドキリと胸が高鳴る。

 勘違いするな、と必死に自分に言い聞かせる。沢村さんは優しいから気を使ってそう言ってくれたに違いない。

「でも意外だなぁ。伊月さんってもっとクールで、落ち着いてる人だと思ってたよ」

 そんな風に見られてたんだ。でも私は自分がクールだとは思っていなかった。

 ただ感情を表に出すことが苦手なだけだと思います……。

「こんなにくるくると表情変えるんだね。ふふっ、今日は伊月さんのことを知れて嬉しいな」

 沢村さんがくすりと笑う。その表情を見たら、胸がいっぱいになった。

 漫画だったら『きゅんっ』なんて文字が出ていただろう。

 沢村さんと話してみてよく分かった。間違いなくこの感情は今まで抱いたことのない感情だ。

 そして今まで聞いてきた恋愛話や漫画の知識と私が感じた感情が一致していた。

 だからきっとこれが『恋』だ。


 私は――彼女に恋をしている。

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