2話 これって恋?

 朝の支度をし、いつもよりも少しだけ早めに家を出た。

 朝食を食べる際、お母さんが「時間ギリギリに起きてくるのに、今日はどうしたの」と大袈裟に驚かれたことは不服である。

 そんなに寝坊魔みたいに思われてるのか、私は。いつもギリギリだけど寝坊はした事はないのに。


 清々しい朝の空気を吸い、歩みを進める。

 うん、たまには早く出るのも良いものだね。……五分だけだけど。

 良い気分で歩いていると、なにかが変わるんじゃないかと期待が湧いてくる。しかし学校へ着くまでの間は何も無く、着いてからもなにも変わったことはなく、そこにいつも通りで変わらない光景が広がっていた。

 自分の席に着く頃には期待も萎んでいて、諦めたように息を吐いた。

「やっぱりありえないよね」

「なにが?」

 無意識に声に出ていたようで、私の隣にいた友人――あんずは不自然そうな顔で私を見つめている。

「ううん、なんでもない」

「ふーん、それより昨日デートしたんだけどさ」

 恋愛話を聞くのは好きだ。楽しそうで、聞いてる私も少しだけ恋愛感情に触れられる気がするから。

 だけどやっぱり遠くて、届かないものだ。


 ――そう、思っていた。


 変化が訪れたのは彼女が現れてからだった。

「おはよう」

 その言葉は私に向けられたものではない。教室の入口でクラスメイトに挨拶をしていただけ。

 それなのにホームルーム前の教室の喧騒の中で、ハッキリと聞こえた。

 綺麗で澄んだ声。その声を聞くことは初めてではないのに、知らない声のように思えた。

 彼女は沢村さわむら 友希乃ゆきの。ストレートの髪は腰まで伸ばしていて顔立ちも綺麗。その立ち姿は草原に咲く一輪の花のように美しく見えた。

 私の意識は彼女だけに向く。

 花のようにふわりと笑みを浮かべる沢村さん。

 彼女の顔を見るとドキリと胸が高鳴る。自分の心臓がバクバクとうるさい。彼女から目が離せなくなった。

 なんだこれは。なんだこれ!?

 私は困惑する。

 突然湧き上がる知らない感情に。

 もしかして――そんな期待が胸を膨らませる。

 ――これって恋心?




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