偽りの恋心、その想いの行先

kao

1話 始まり

 ――いつか恋が出来ると思っていた。

 だけどそんな日はいつまで経っても訪れることはなく、私――伊月いづき美穂みほは高校二年の夏を終えてしまった。

 高校生にもなって初恋もまだしたことがないという人は少なく、私の周りはみんな当たり前のように恋をしている。

 友達の恋愛話を聞きながら、私はどんな恋をするだろうかと心を弾ませていた。しかし一向に私に春が訪れることはなかった。……もう秋である。

 みんなが恋をしていることが不思議で堪らない。

 もちろん恋愛はいい事ばかりではない。傷つくことも苦しいこともあるだろう。だけどそういう感情も含めて、一生懸命に相手を想う気持ちは輝いて見えたのだ。

 羨ましい――そう、思うようになったのはいつからだろう。けれど、羨望しようとも私には恋愛感情というものは湧いてこない。

 私にもいつか分かる日がくるのだろうか。それともこのまま一生分かる日はこないのだろうか。












 私は少女漫画を読み終え、そのままベッドに横になる。

「恋愛、してみたいな」

 そう、ぽつりと呟く。

 漫画は色々なジャンルを読むけど、特に恋愛ものが好きだ。だから少女漫画を読むことが多いと思う。

 恋愛に対する憧れが趣味嗜好に出ているようだ。

 とはいえさすがに高校生もなって、漫画みたい恋愛が現実にあるなんて思ってない。

 急に王子様なんて現れないし、「おもしれー女」なんて言ってくるイケメンはいない。

 私が求めているのはそういう劇的でロマンティックな恋ではなく、普通の恋だ。

 漫画を読み終えた私は特にすることがなくスマホを開く。時間を見ると二十一時を表示していた。

 寝るにも少し早い時間。

 私はぼんやりとSNSを眺めて無為な時間を過ごすことにした。

 友人のSNSの投稿や動画を見て、あとは目的もなくただの暇つぶしで知らない人の投稿を眺めていく。

 私は基本的に見る専で、ほとんどコメントを打つことは無い。

  画面をスクロールしていくと、『誰かこの恋をもらってくれませんか?』という言葉が目に入った。

『R𝖾𝗇』という 名前のアカウント。知らない人の投稿だ。

 いつもならば気にならないはずの文章。けれどその言葉に惹かれて、気づいたらコメントを送っていた。

『その恋、私にくれませんか?』と。

 コメントを打ってから私はなにを馬鹿なことをと自嘲した。他人の恋をもらうことなんて出来るはずがないのに。

 私はふぅっと息を吐き、そっとスマホを閉じる。その日はなにも変わったことは起きずに過ぎていった。


 いつの間にか眠りについていたのか『ピピピピピ』というスマホのアラーム音で目を覚ます。

 時間を確認しようとスマホを開くと、SNS通知が一件。

 友人のメッセージだろうと、眠気まなこで通知の表示をタップする。

 昨日のコメントに『あなたに差し上げます』と返信がきていた。

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