涙の決断
romandamour
ショートショート
中世ヨーロッパ、フランスの片田舎に広大な領地を持つ伯爵ギヨームは、愛する一人息子ルイを厳しくも大切に育ててきた。若きルイは剣術に秀で、騎士としての誉れも高かったが、気性が荒く、領民に対して高慢な態度をとることがしばしばあった。
ある日、ルイは領内の村で農民を馬で轢き殺してしまった。酒に酔い、ふざけ半分で馬を走らせた末の惨劇だった。村人たちは怒り、伯爵の館へ嘆願に訪れた。
「どうか、殿。罪を償わせてください。さもなくば、我らは納得できません!」
ギヨーム伯爵は深く悩んだ。息子を心から愛していたが、貴族としての責務も理解していた。もし領民の声を無視すれば、不満は積もり、やがて反乱の火種となるだろう。だが、ルイはたった一人の後継ぎだった。
夜、ギヨームは息子を呼び寄せた。
「ルイ、お前は罪を犯した。分かっているな?」
「父上、私は貴族です。たかが農民一人の死が、それほどのことだとは思えません」
ギヨームは胸が締めつけられる思いだった。ルイの中にある傲慢さを、これまで正せなかったのは自分の責任だ。
「お前は裁かれねばならぬ」
「父上……まさか……?」
「明朝、お前を処刑する」
ルイの目が見開かれる。だが、ギヨームの顔に揺るぎはなかった。
翌朝、城の中庭にルイは跪かされ、執行人が剣を構えた。領民たちが固唾を呑んで見守る中、ギヨームは最後の言葉を息子に送った。
「我が子よ、お前を愛している。だが、領主として、この地を守るため、私はお前を斬らねばならぬ」
ルイは目を伏せ、小さく笑った。
「ならば、誇り高き騎士として死のう。父上、どうか最期まで見届けてください」
刃が振り下ろされる。
ギヨームの目から、涙がこぼれた。
涙の決断 romandamour @romandamour
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