魔核
飽きましたね。
基礎訓練には面白みがない。魔法込みの訓練ももう思いつかないしな。
そういえば魔核は売れるのか?定番でいくなら冒険者の収入源だと思うのだが。
まぁ何事も試しだ。ギルドなら買い取ってくれそうなんだが。
「はい! 買い取らせていただいてますよ!」
やはり売れるようだ。しかも聞いているとそれなりの値段で売れるようだ。
「これはなんに使うんだ?」
「魔道具と呼ばれるものであったり、珍しいものだと超高級装飾品などに使われることもあります。ステータス確認の魔道具も読心術を持った魔物の核で作られたんですよ」
ほう、結構使われているのだな。
「……ですが……魔核は冒険者の方でないとギルドには売れないんです。偽物の可能性がありますからそれに見合った実力の証明が必要なんです」
よくできている……のか? ならこれは試験の後か。
「大まかな鑑定とかはできないのか」
「本当に大まかなものでしたら私が致しましょうか?」
「頼む」
袋から数個の魔核を取り出し、カウンターに置く。
「……そちらの袋には……すべて魔核が入っているのですか……?」
目を見開いてそんなことを言ってくるがそこまでの反応をすることなのだろうか。
「そうだが」
「……とりあえず鑑定致します」
カウンターの数個の魔核に視線を落とし、手袋を着けて丁寧に観察を始めた。
その体から僅かに淡い光が漏れている。
おそらく感覚器官を強化しているのだろう。特に第六感を強化していると予想するね。見た目やらで鑑定できるものではないだろう。知らんけど。
「こちらはスライムの魔核でしょう。こちらはアイスドッグ。こちらは……アルベロではないですか」
アルベロは知らんが確かにスライムと犬の魔物の核だ。アルベロと呼んでいたものは確か木の魔物だ。訓練をしていたら間違えて倒してしまった。
「スライム以外はなかなかにレア度の高いものですね。これらだけでも売ると合計で二十万は下らないでしょう」
二十万か。日本円じゃないと分からん。ただ俺の泊まってる味気ない宿なら百日くらい泊まれる。
「ありがとう」
魔核をまとめて袋にしまった。
アルスもそのタイミングで手袋を外してポケットに突っ込んでいた。
「またのお越しを」
背を向けてギルドから立ち去る。
ギルドを出て目的地もなく歩きながら考え事をする。
装飾品とか言ってたよな。
いつものお礼でルフになんかあげるのも良いかもな。
そうだな、大抵のものは羽衣に見劣りするだろうな。羽衣の近くでは分が悪い。しかし、足やらだと着物ではまず見えない。せっかくのプレゼントだ。どうせなら見えるところに着けてほしい。
……そうか。それがあったな。
指輪 ガーデンリング
白い字でそう書かれた茶色の看板が扉の上にある。昔ながらの茶色の窓枠に奥がよく見えない窓ガラス。渋い魅力を感じさせる。
気付いたときには中に入っていた。惹き込まれたのだ。
「いらっしゃいませ」
一度も行ったことはないがバーのような雰囲気を感じさせる落ち着いた店主と思しき人物の低い声。
カウンターの奥に佇み朗らかな笑みを浮かべている。
置かれている数種類の指輪は輝きを感じさせ、つい魅入ってしまう芸術としての完成度の高さがうかがえるような美しさがそれにはあった。
「こちらはあなたが?」
言葉も少し丁寧になっていた。尊敬の念を抱いてしまう程のものだということは一目で分かる。
「ええ、私の作品でございます」
それはまさに作品と呼ぶにふさわしい代物だ。
「指輪のオーダーメイドはできるのでしょうか」
魔核を使った店主の指輪。一体どうなるのか想像もつかない。
「もちろんでございます。お作り致しましょうか」
「これを使って作っていただけないでしょうか」
綺麗な薄紫色の魔核。今まで一度だけ見た普通よりも強いスライムが落とした魔核だ。ルフに一番似合うだろう。
「……これは……魔核……というものでしょうか」
「知っているのですか?」
少し意外だった。冒険者でも何でもなさそうな雰囲気だからな。
「はい……職人の中では最高級の素材として有名です。まさか魔核を使えるときが来ようとは」
そうだったのか。しかし有名になるほどこれは高級な代物とは思えないな。
「作っていただけるということでしょうか?」
「もちろんでございます。魔核を使えるとは光栄です」
しまった。周りの指輪を見ると最低三十万はしている。そんな金は手元にない。
「お代は頂きません。その代わり、私に魔核を売って頂けないでしょうか」
「よろしいのですか、そんな」
朗らかな笑みをこちらに向ける。
「えぇ、私はお金のために指輪を作っているのではありません。指輪を心の底から愛しているからなのです」
かっこいいな。はっきりと言い切るというのはなかなかに勇気のいることだ。
「……分かりました。ギルドでの買い取り価格の七割でお譲りします」
「よ、よろしいのですか……! ありがとうございます」
数十万の指輪を完全にタダはさすがに申し訳ないからな。このくらいしないと。
「あまり飾らない指輪を作っていただけるとありがたいです。何日か後に受け取りに来ますのでその時にまた」
この世のどんな宝石よりも美しくなった魔核を見られるのはとても楽しみだ。
「ぜひ、期待してお待ち下さい」
大いに期待しているさ。確信に近いな。
することもないので森に入って適当に訓練をする。
せっかくメジャーをもらったのだから使いたいところだがどうも思い浮かばん。いっそ売ってやろうか。
……冗談だ。
やることもないし穴でも掘るか。
火球を生成し、地面にぶつける。深さ1メートルちょっとの穴ができた。
なんのために掘ったかって? 意味はない。言うなら魔法が使いたかったから。
突発的な思いつきから今持てる全魔力を1つの火球、サイズをそのままに込める魔力の密度を数十、下手したら数百倍にする。
引き伸ばして矢のような姿にしてさらに火力を一点に集中させる。
サイズ調整により保たれた操作性を利用し、速度を乗せて穴の中心部分にぶつける。
今まで聞いたどの着弾音とも比べ物にならない音と土煙をあげて火の矢は消滅し、魔力を使い切ってフラフラになった体を柔らかくもない地面に投げ出す。
シンクホール現象というものがあるらしいな。まさにそんなんだ。下方にだけ破壊力が向くようにすると数十メートル、いや、数百メートルだな。数百メートルに渡って地層が見えるようになっている。
大きな達成感だ。体の奥底から染み渡る爽快感が体の疲労を消し飛ばして余りあるほどの達成感を生み出している。
肝試し的な感じで穴を飛び越えてみることにする。
少し助走をつけて走り出す。
数メートルはあろう穴の手前で踏み込んで向こうを目指す。数秒の間空中にいた。意外とあっさり飛び越え、肝を冷やすほどでもなかったと息をこぼす。
「よっしもう終わり」
あんまり体力を使いすぎて回復しないと大変だ。今日は早いところ帰って明日に備えるべきだろう。
そんな理由をつけて宿に戻る。この生活最低限の宿にも少し愛着がわいてきた。
そろそろ宿を出ることになるかもしれない。その時のために軽く荷物をまとめていた。
もともと荷物はほとんどない。まとめるのも簡単だ。
もはや慣れた優雅な朝を迎えてここでようやく試験の時間を知らないことを思い出した。
ギルドにある程度の荷物を持って向かう。軽装だ。以前買っておいた短剣も一応装備しているがそれもいつも通りの格好なので違和感はない。
「試験ってのはいつ始まるんだ?」
唯一と言っていい友好的な知り合い受付嬢である、アルスの下へ向かって聞いてみる。
「気まぐれです。第一次試験の試験官が開始したら始まります。今日のうちではありますが、いつになるかはわかりません」
なるほど、だから酒を飲んでいるわけでもないのに酒場にたむろするやつらがいたんだな。
ならば俺も酒場で待たせてもらうとしよう。
「そうか。ありがとう」
「いえいえ」
終始ニコニコだったアルスから視線を離して酒場に向ける。
酒場に向かって財布に金が入っていることを確認してから適当に水とフライドポテトを注文する。
注文を取った店員はどことなく違和感を感じさせる。新入りなのだろうか。少しぎこちない動きに見えた。
あやつらは何も頼んでいやがらない。それでは酒場は商売上がったりだ。
「合格です」
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