困った時の女神様
「私の家系は魔法が使える者が多いんです。その中には攻撃魔法を使える人もいます。私の父もそうです。ですが普通ではありません」
つまり俺にはやっぱり主人公補正がかかっていたってことか。……後でルフに謝ろう。
「あなたの魔力量は相当です。もしかしたら漏れ出る魔力が多すぎて私のような魔力を持つものでも黒く見えるという可能性は無きにしもあらずです」
もう敬語いらんか。
「それはない。俺は生まれた時から黒だ」
毎日風呂の鏡で見ていたから確実だ。そもそも大して多いわけではない。アルスより少し多いくらいのはずだ。
「そうですか。……冒険者試験で魔法を使うのは当然なしですよ。身体能力強化を使えば大抵クリアできてしまいますから」
それではつまらない。素の身体能力で行くとしよう。
「分かった」
「ちなみに攻撃タイプの魔法使いは二千分の一程の確率だと聞いたことがあります」
二千、か。なかなかに低いな。ありがとうルフ。
「すごい確率だな」
「両刀は聞いたこともありませんよ。もしそうだとしたらすごいことです」
そこまで言ってパチンッと手を叩き花開くような笑顔をこちらに向けた。
「そうだっマシロさん、うちに来てみませんか?父なら有益なことを教えてくれますよ」
アルスがグイグイと顔を寄せてくる。
「良いのか?」
「はい、もちろん!」
お茶菓子とか用意するべきか? そのへん全くわからん。
アルスは近寄りすぎていた事に気がついたのか顔を赤らめて座り直していた。
「……じゃあ試験の後に行かせてもらおうかな」
そう、今は試験優先だ。体術を鍛えなければ。
「はい! 日にちを決めたら教えてください!」
しかし、受付嬢って休みあるのか?
「受付嬢は休日ってあるの?」
「? ありませんよ?」
?? さも当然のように答えるが当然ではない。あの会社ですら休日はあった。休日と呼べるのか怪しいくらいの電話はあったが。
「有給使います」
いやいやいや、有給はもっと使い道あるから。
「有給使うほどのことでもないでしょ」
「いやー私は有給を使ってでもマシロさんの成長した姿が見てみたいです!」
それは嬉しいことだが有給はもったいない。
「それに私が案内したほうがスムーズでしょう」
「ほんとに良いのか? 有給は貴重だぞ」
「いいんですよ。そもそも使うこと少ないですし」
そこまで言うならお言葉に甘えさせていただくことにしよう。
「分かった。頼むよ」
「はい! お任せください!」
俺とアルスが部屋から出ると待ち構えていたのかもう一人の受付嬢がいた。
「ちょっとアンタ! 先輩と何話してたの!」
アルス同様顔は良いのだが尖った性格をしていそうだ。アルスよりも北欧感がある。北欧感ってのもよく分からんけど。
「ちょっとアモレアちゃん、お客様だよ」
何を話していた、か。どう説明すればいいのだろうか。
「……ちょっとね」
とりあえず誤魔化そうとするが嘘をつく才能がなかったらしくロクな言葉は思い浮かばなかった。
「……エッチなことですか? そうなら許しませんよ」
僅かに顔を赤らめながらアモレアと呼ばれた女性がそんなことを言い出す。
「そんなわけないだろ……残念ながら」
手をひらひらさせながらそんな心はないとアピールする。
「なっ……やっぱり先輩のこと狙ってるのか!?」
なんで俺がアルスを狙えると思っているんだ。
完全に高嶺の花と言うやつだ。
……合ってるよな? 国語は苦手だ。
「俺にはもったいない存在だよ」
「はぇっ!? そ、そんな……褒めても何もでませんよ」
今度はアルスの方が赤くなる。
こうしてみれば魔法使い以前に女の子だということがよくわかる。
「……わかってるなら良いですよ。…………そんなことより! 何を話してたのか聞いてるだろ!」
可愛い顔して恐ろしい言葉遣いだ。口だけなら俺はボコボコだな。
睨むような、というか二つのエメラルドグリーンアイズがこちらを睨んでくる。
アルスの方を向くと任せてくださいと言わんばかりの笑顔を見せていた。
「冒険者試験について説明してたの。ちょーっとしつこくてね」
なんか俺がしつこいことにされたんだが。
先ほどの全幅の信用を返してくれ。
「やっぱり先輩を狙ってたんですか」
「違う違う、冒険者試験について知りたかっただけだよ」
さらに険しくなる目に対して抵抗の意はないということを表現しようとするのだが、俺には表現力も無かったらしい。
「……はぁ〜まぁいいです。先輩を信じます」
大きくため息をついてこちらを睨むのをやめるアモレアさんに俺も安堵の息をつく。
「先輩に手を出したら容赦しませんからね」
アモレアさんの細い腕なら今の俺でも折ることはできる。もちろんしないが、俺は受付嬢くらいなら勝てる。
……受付嬢に勝ったところでか。
「分かったよ、手は出さない」
アルスが頭を軽く撫でると恍惚とした表情で上機嫌に立ち去ってしまった。
「……すいません。あの子血の気が多くて」
アルスが頭を下げるがそんなことするくらいなら俺も頭を撫でて欲しい。
そんなこと言ったらアモレアさんが飛びかかってくるだろう。
「いやいや、いいんだよ。あのくらいの方がかわいいってもんだ」
「……? そうですか…」
そんな何いってんだコイツ見たいな顔を向けないでくれ。
冒険者ギルドの表まで戻り、アルスがカウンターの中へ入っていく。
体術を磨くのもすぐに飽きてしまう。だがやらないわけにもいくまい。
ほぼ毎日来ている森にたどり着くとたまに見かける魔物のうちでもかなり当たりだと思っている『ロウウルフ』と出くわした。命名は俺だ。
かなり小型ながら強靭な歯を持ち、獲物の骨すら噛み砕いていた。足もそれなりに早く、今の俺ならギリギリ追いつけるくらいのスピードだ。
強い魔物はなかなかに訓練になる。
この前は魔法で仕留めた。ならば次は拳だな。
こちらに気が付き、狙いを定めた灰色狼が一直線に飛んでくる。
直線的な攻撃なら完全に見切れる。軽く躱して横から腹部に拳を叩き込む。
吹っ飛びはしない。着地点が三十センチほどズレる。
自身のスピードを見切られると思っていなかったのかわずかに動きが鈍る。そのスキを見逃すほど俺は弱くもないし甘くもない。
軽い体を蹴り上げ、首を強く握る。魔物が酸素を必要とするのかは知らないが首は大事だろう。
苦しそうに呻いているところを見るに喉を潰すのは効果的なのだろう。
しかし、いつ消えるのだろうか。すでに3分ほど締めている。力が弱いのだろうか。
試しに骨を折るつもりで力を入れてみる。そこまでの力はないが普通の狼ならすでに息絶えているはずだ。
耐えきれなくなったのか狼から力が抜ける。そこから消滅までは早かった。ほんの数秒でそれなりのサイズを持った魔核へと変化した。
「これって売れるのか?」
独り言を呟くと当然何も返ってこない。
仕方がないのでいつか試すことにして魔核をまとめている袋にしまう。
基礎修行の一環として木と木の間を蹴って上に登る。
間が1メートルくらいなら十数メートルは登れるが1メートル以上となるとなかなか難しい。
明日までには3メートルまでできるようにしておこう。
……飽きた。魔法使いたい。
……そうだ! どっちもやればいいんだ!
火球を小さく生成し、それを維持しながら走り出す。集中力が解けると火球は数秒で消え去ってしまった。
これは難しい。自然と口に笑みが浮かぶ。
やはり魔法は素晴らしい。この成長性。数時間でそれなりにできるようになった。
火球を生成し、二十本の木に火球を当てて焦げ跡をつける。タイムは…八秒だ。最速記録!
えーと木と木の間がだいたい二メートルだから…あー……四十メートルか。魔法込みで言えば速い方だな。
1回五十メートル走やるか。
…………メートル測れねぇ。ライフハックなんか覚えてねぇよ。
困っときは、そう、ルフだ。
みんな大好き超優秀女神ルフさん。
「はぁ~お前は私をなんだと思っておる」
少しチョロくて優しい女の子だな。
「心を読まれる前提で話すな」
さすがに慣れたな。
「まぁ良い。………私も女の子なんだ…チョロいとか言われると……傷つく」
悪い、取り消す。
ただの優しい女の子だ。
「そ、そうか? ふふ、分かった。メジャーでいいんだな。いっぱいあげよう」
いっぱいは要らん。五十メートル測れるデカいやつ1つ欲しい。
「そうか……分かった。目を開けよ。転送しておいた」
俺は手を崩し目を開ける。
床に学校以外で見たことのないタイプのメジャーが落ちていた。
やっぱすげぇ。そして優しいな。
森に戻って五十メートル真っすぐ通れるところを探す。数分かかったね。木が多いな。
軽く線を引いてクラウチングスタートの形をとる。息を整えて前を向く。
スタート。
少し地面に跡がつく。
1 2 3 4…………5
6秒切れなかった。確か世界記録は5秒なんかだ。いけると思うんだがな。
一旦今日は帰ろう。
優雅な朝を迎えると最近毎日と言っていいほど話していたせいでついつい足を運んでしまう。
教会だ。
「なんだぁ〜お前は」
なんだか不機嫌な声が耳に届く。
特に意味はないな。
「ならば来るな」
……そうか……。
仕方なく手を崩そうとするがルフに呼び止められた。
「いや……嘘だ。……いつでも来い」
?
どっちなんだ。
「……いつでも話し相手になってやる」
きゅん
………ハッ、無意識にキュンとしてしまった。
すごいかわいいじゃないか。
「ありがとう」
「かわいいなんて言ってくれる人いないし……」
それは実際にかわいいんだから仕方がないな。
「けど声だけじゃないか」
じゃあ実体で出てこい。いくらでも言ってやる。
「そ、そうか? …………明日なら降りれるな」
だが明日はもう試験だぞ。
「それもそうじゃったな……試験が終わったら行くとしよう」
待ってるよ。
「うん」
……話すこともないな。最近日本はなんか面白いことはないのか?
「あぁ、面白いことならあったぞ」
教えてくれ。
「お前の会社は潰れた」
そうか。順当だな。
「お前の部署のマドンナやらは会社を設立したんだ。これが面白いほど成功していてな。和食料理屋をやっているぞ。いつか見せてやろう」
確かにいいことだがそこまで面白いことか?
だが上機嫌なルフの声はやはり健康にいい。
「そうだな。大して面白くない。面白いのはここからだ」
すごいハードルあげるな。
「唐突に同性婚が認められたんだ」
………ほう?
「初の女性総理大臣が就任してその人が同性愛者らしいんだ。それでだな、マドンナとNO.2が結婚した。……あぁ、今もすごいいちゃついてるぞ」
それはとても見てみたい。まさかあそこの百合コンビとは。
「あっ…ちょっ指が………すごい……声出てる。この2人……エロすぎるな………」
ダメなことを言っている気がする。何も見えないが……とてもイケナイ雰囲気だ。
「うわっ……そんな……舌遣いが上手すぎるな。私もされたい」
これは……切ったほうがいいかもしれない。
「あ、すまん、つい熱中してしまった。お前も見たほうがいいぞ。…………あっダメだ。女神である私にすら刺激が強すぎる。ちょっと……あぁ……やばい……んぁ……」
ほんとに女神かよ。
腐りかけの女子じゃねえか。準腐女子だな。もはや腐りきっているかも。
「ちょっと……一人で……集中して見るから切ってくれ。……聞いてたかったら……聞いててもいいぞ……? …………刺激は強いがな」
やめましょう、そういうの。健全に行こう。
だが……めちゃくちゃ興味ある。俺はそこまで純粋じゃあない。聞いてていいと言われたのだからいいのではないのだろうか。
怒られるかもなぁ。
……あと一分だけ。そうだ。
「おわ……そんな……デカ……私も揉んでみたい……ちっちゃいのもいい……えっと……おぉ……どっちも処女だ…………もっと脱ぎやすい服にしてほしいな……うわ……そろそろやばいんじゃない……うわ………気持ちよさそう——————」
一分たった。これ以上聞いているとまずかったな。性描写ありを付けなければならんことになっていたかもしれん。
しかしちょっとルフは痴女らしい。女神として活躍して得た情報を悪用してやがる。顔も声も良い分、たちが悪い。
俺は記憶の奥底にしまって教会をあとにする。
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