アリカ先生がお気に入り
ま、子供同士の喧嘩なんて毎日ある事で、"仲良く"なんて綺麗事を言葉で言うのは簡単だけど実際には難しいと思う。
「いっくん、ごめんね」
「僕も叩いてごめん」
すぐに言い合いになるかもしれない。
「いっくん、一緒に遊ぼう」
「うん、僕もこれ貸してあげるー」
「ありがとう」
さっきまで泣いて喧嘩してたのに、仲直りの早い事。
手を繋いで私に背中を向けて走っていった。
でも、この2人がにっこりと笑って伝えられたその言葉は本物だ。
素直にごめんなさい、真っ直ぐなありがとう。
そういうのの繰り返しで、こんな小さな子達が少しずつ大きく成長していくんだろうな。
なんて思ったところで、2人の間ではまた次の日に喧嘩が始まった。
他の先生逹が仲裁に入るという、現実は喧嘩と仲直りの繰り返しになっているのだけど。
「先生、お世話になってます」
「いえいえー」
保育園だから子供達の帰る時間はバラバラだ。
8月で日が長いといえど7時近くになると、辺りは薄暗くなってくる。
「サクラったらアリカ先生がお気に入りみたいで……」
なんて穏やかそうに目を細めるのは、サクラちゃんのお母さん。
サクラちゃんちは共働きで、お母さんの仕事も遅くなる日も多く、おばあちゃんが迎えに来ることもある。
「えっ!本当ですか?」
サクラちゃん、家でそんな事言ってるんだ。意外だな。
「アリカ先生に言われたから、いつきくんと仲良く出来るって……」
「マーマー!それ内緒って言ったじゃん!」
話の途中で、サクラちゃん本人がお母さんの足にしがみつく。
お母さんは悪びれもなく"ごめんごめん"ってクスクスと笑みを浮かべた。
「先生。いつきくんにも内緒ね……」
そう言って、サクラちゃんは困った様に人差し指を口元に当てる。
本人が意識しているのかは分からないけど、サクラちゃんの頬は赤く染まっていた。
「じゃぁ、またねー!」
元気なサクラちゃんの声と共にお母さんもペコリと頭を下げる。
私に子供らしい無邪気な笑顔を見せてから、お母さんの腕を組んで歩き出すその背中が目に入った。
素直で可愛いな──。
こういう時って、やっぱり保育園の先生やってて良かったなぁって思えるんだよな。
自然と笑みが溢れて、心が温かくなった。
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