03 / 一夜の

5年彼氏はいない



「んじゃ、かんぱーい!!」


昨日とは変わって、ちょっと安めの居酒屋。目の前に座るダイは、右手にビールジョッキを持っている。



「ちょっと、アンタ車でしょ?」


「代行で帰ればいーじゃん」


「……」


「それか、母ちゃんに迎えに来て貰うから。今日帰ってくるって言ってたし」


「……」


「んで、ユミの部屋泊まれば問題ねぇじゃん」


そう言って"その服だってユミのなんだし"と続ける。

確かにそうなんだけど、それって送って貰う意味なくない?


あからさまに眉間に皺を寄せた私に対して、ダイは悪びれも無くヘラヘラと口元を緩ませる。



「それじゃっ……」


「それにー、アリカ寂しそうだったからさ」


対抗しようとする私の台詞が、分かった様な口調で制止された。


「はぁ?だ、誰が寂しいって?」


「だって、昨日言ってたぜ」


ダイはそう言ってビールジョッキを口に付ける。



「そんなこと……」


「酔っ払って泣きながら」


「泣いてなんか」


ダイが自信満々に鼻で笑うから、昨日の記憶が途中かな無い私に否定する事が出来ない。



「お待たせしましたー」


間に枝豆が運ばれてくる中で、賑やかな笑い声が耳に入ってくる。

店内は中年のオジさんや、学生位に若い男女のグループ等、年齢層は様々だ。



「しかも5年カレシいないとか、欲しいとか言ってたぜ」


ダイの言っている内容はあってるから、本当にそんな事を言ったのかもしれない。



「めっちゃ、泣き上戸なんだな。アリカって」


なんて台詞を吐くダイは、楽しそうに笑みを浮かべるから。7つも年下のダイの目の前で無償に泣きたくなってしまったのは、まだ昨日のお酒が抜けきって無かったからかもしれない。


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