眠れば明日がやってくる

白川津 中々

◾️

すごく眠いのに眠れないんだなーこれが!


深夜0時過ぎ。かれこれ3時間もぞもぞとしているが一向に眠れない。クソほど疲れて頭回らないのに何故寝付けないのか。どう考えても寝られる状態なのに睡眠が拒否される。助けてくれー!


原因はなんだ、ストレスか。確かに職場に嫌な奴がいて、視界に入れるだけでも胃が痛くなるような状態。自分本位で他者のことなどこれっぽっちも考えないあのゴミがいる場所へ朝になったら向かわなくてはいけないのだ。そら眠りたくもなくなる。まったく辟易。溜息。

まだある。金がない。有り金は全部遊びに使ってしまっている。将来の蓄えもないし、病気や怪我なでしようものなら即刻死だ。まったく不安が拭えない。

彼女がいないのもいただけない。若い時間は刻々と過ぎてゆく。肌が瑞々しいうちに、女の肉を貪れない侘しさと情けなさといったらないじゃないか。寂しい一夜を慰めたとて、僅かな甘美と引き換えに長い虚無感を傍に招かねばならない。涙が出てくる。

それと、最近太ってきた。好きなように生活してきた結果、着られない服が箪笥の肥やしと化している。一人暮らしで自由が効きすぎ、刹那的な食の欲求に抗えず、脂肪が蓄えられているのだ。代償はあまりに大きく、立派に育った腹が恨めしい。


こうしてみると俺の人生ろくなもんじゃない。むしろ、寝ている場合ではないのではないか。再起を図り、新たな一歩を踏み出すべきだ。

そう思うと俄然やる気が出てきた。よし、やろう。そう決めた俺は充電されているスマートフォンを手に取り検索。なんでも中小企業診断士という資格を有していれば今後が有利らしいとの情報を得て、早速電子書籍で資格取得のためのテキストを購入し学習を開始した。


あ、眠い。


直後、眠気。文字を数ページ目で追うと疲れ切ってしまい、条件反射的にスマートフォンを充電器へ戻す。瞼を閉じると底なし沼に落ちていくような感覚。あ、これは寝れるわとうつらうつら。どうやら俺には建設的な時間は不用であるらしい。なるほど。神はこれからの人生もうだつが上がらないようにしたいとみえる。ならば、寝つきの悪い日は勉強をすればいいってわけだ。ちくしょうめ。


クソな人生。クソな自分。運命への怨嗟。なにもかもが、睡眠に溶けていく。束の間の安らぎは苦しみの合間にあるほんの一間の休息に過ぎない。永遠に眠られたらどれだけ幸福かと、叶わぬ願いを胸の中で唱えていると、とうとう頭がぼんやりしてきた。眠れるぞ。

変わらない毎日と変われない俺よ、おやすみ。そして、また明日……

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