第6話

次の日。

昨日ケリーとアンダンテさんに会わなかったからナイフの話をしに街に行くことになった。

母さんは近くにある村に手伝いに行っているし、父さんは商品の制作をしないといけないしで私しか手が空いてない。

「まぁ、会うとは限らないもんね……」

あまり気乗りしないものの、大事な仕事道具の修理を請け負っているのだから修理にかかる期間や料金についてはきちんと伝えなければ。

街まで行き門を通ってすぐの路地に入る。

すると、ケリーの後ろ姿が見えた。

「ケリー!」

「おっ、ララじゃん。どうした?」

声をかけるとケリーがこちらを振り返る。

「前預かったナイフのことで、少し相談があって」

「ああ、なるほどな。じゃあちょうど父さん家にいるから上がってけよ」

「ありがとう」

ケリーの家に上がるのは久々な気がする。

「おじゃまします」

「父さーん!ララが修理頼んでるナイフのことで相談だって!」

どうやらアンダンテさんは奥の方にいるようでケリーが少し声を張る。

「おう!ちょっと待ってろ!」

すぐに返事が返って来た。なにか作業の途中だったようだ。

「そこ座ってなよ」

「ありがとう」

私が座ると、正面にケリーも座る。すぐにアンダンテさんも来てケリーの隣に座った。

「頼んだナイフ、なんかあったか?」

「いや、そんな重大なことでもないんだけど、柄が完全に折れてるから別の柄を作って刃を付け替える形になるらしくて、そうすると時間もかかるし料金も少し上がってしまうからどうするか聞いて欲しいって父さんが」

「ああ〜そんなことか、構わねえよ。この前ケリーに買ってきてもらったナイフも相変わらず質がいいからな。いくらかかろうと文句はねぇって伝えとけ」

そう言ってアンダンテさんは笑った。

代々猟師をするアンダンテさんの家と父さんの家は、父さん達よりもずっと前の代から仲が良いらしい。私とケリーも仲が良いと思う。

なんだか絆を繋いでいるようで、ほんわりと、嬉しい気持ちになる。

「うん、じゃあ父さんにはそう伝えとくね」

そう言いつつ立ち上がる。

「おう、ありがとな、わざわざ」

「全然大丈夫。おつかいは任せてよ」

「最近ララのことめっちゃ見るからな〜無理はすんなよ?」

「もちろん。ケリーもね」

「まかせろ」

「じゃね」

2人が通りまで見送ってくれて嬉しくなった。

昔、今の父さん母さんに拾われる前の孤独感が嘘みたいに今は色んな人と関わって暮らしている。それだけで私は幸せだ。

「やあ」

今しがたそんな気持ちも霧散してしまったけどね。なんでいるのこの人は。

「なんだか嫌そうな顔だね?」

「……………嬉しくはないです」

「悲しいなぁ〜僕は君に会えて凄く嬉しいのに。今日は通りの商店にいなかったからなにかあったのかと思ったよ」

無視は良くないかと思い一応返答をしつつも門に向かって歩き出す。

そして彼はその横を当然のようについてくる。

「毎日いるわけではないので……あと名前も存じ上げない方に会ったとして特に感情は湧きませんよ」

そんなことはない。たとえ名前を知らなかったとしても1度良い関係を築ければ嬉しさも感じるだろう。でもこの人は例外だ。

「ああ、それもそうだね。自己紹介しようか。僕はエリオットだよ。君は?」

墓穴掘った気がする。自ら話題提供しちゃった気がする……!なんか悔しい。

「…………………ララです」

「ララか〜可愛らしい名前だね。君にぴったりだよ。うん、ララか……いいね、良い名前だ」

あんまり連呼しないでください………。

そしてこの会話をしている間ずっと彼──エリオットは私と真逆の笑顔だった。

何がそんなに嬉しいんだろう。

「あ、着いちゃったね……」

「そうですね。では、私はこれで失礼します」

私なりに丁寧にお辞儀をして街から出る。

「ねえ、ララ」

名前を呼ばれて思わず振り返る。

「また会える?」

門の奥に見えるその顔がとても寂しそうで、昔の私と思わず重ねてしまったから。

「………明日、来てみたら分かると思います」

思わずそう、言ってしまった。

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