第8話

や、ややややややばいっ!!


なんだか知らないけど、RUIが菫さんに絡んでる!


菫さんには、私を親戚の子と紹介してもらうように頼んであるけど、いまこの場に私はいないし、ashのメンバーにならとgrisのことを話してしまうかもしれない。



ど、どうしよう!?

とにかくメッセージで……っ。


慌ててスマホを取り出そうとして、あぁ〜!スマホ席に置いてきたんだ!自分の間抜けさにもう頭が痛い。



「あ、はい!田舎からちょうど親戚の子が遊びに来てるんです」


……菫さぁん!

私の嘘に付き合ってくれてっ!ありがとう、大好き〜!



「へえ、そうなんですね。社会科見学ってやつですか?」


神奈が聞くと、菫さんは笑顔で「ええ、そうです。今ちょっと席を外してますけど」

と話を合わせてくれている。



「ふぅん、親戚の……」



RUIはその答えにもう興味を失ったのか、独り言を呟いて奥の席へと歩いて行った。



「おい、RUI!ったく……すみません、じゃあ俺たちはこれで」


「あ、はい。みなさん練習がんばってください!」


「ありがとうございま〜す」



出入口からは見えない奥のスペースへと4人が消えたのを確認して、ようやくテーブルとソファの隙間から抜け出す。



「ん〜っ、身体痛い……っ」


伸びをすると、ashが消えたほうに視線を向ける。


ここは危険だ……、もう出よう。




「菫さん、お待たせしました……あの、もう出ませんか?」


席に戻るなりこそこそと話す私に、菫さんは不思議そうにしながら「では、片付けてきますね」と空いたカップを持って返却口へ向かっていった。


テーブルに私が紙ナプキンで作ったバレリーナが残されていたのに気づいて、慌てて菫さんのあとを追う。


「菫さん、これも〜」


「あら、このバレリーナ捨ててしまっていいんですか?とても可愛いのに……」


「ふふっ、これいつでも作れるしただの暇つぶしですよ」



私はファミレスやカフェなどで紙ナプキンが付いてきたときに、紙を捻ったり切り込みを入れて簡単に作れるバレリーナの形を作ってしまう変な癖がある。


コーヒーやカフェラテ、カプチーノなどとにかくコーヒー系の飲み物が大好きで、カフェに行くことも多いし、新しいカフェを探すのも好きだ。


この事務所のカフェスペースも雰囲気もコーヒーの味も良く、なかなか気に入ったのに……。



「ここは二度と使わない」




やっぱり、同じ事務所にしたのは失敗だったかなぁ。


こうも早く接触の危険があるなんて……。



社長の手腕と人柄に惹かれて、しつこい勧誘の後押しもあり、ashがいるこの事務所を選んでしまったけど。


所属するアーティストとの交流はしなくていいし、あまり事務所に来なくていいって言うからちょっと安心したのに……。



幸先悪すぎて、不安。


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