戸田公園へ

白川津 中々

◾️

河を見てぇ。


そう思い立ち、昼過ぎに外出。最寄り駅へ。交通系カードにチャージして電車に飛び込み数駅跨げば埼玉県戸田公園駅に到着ってわけ。早いもんだ。

さて、駅の地名にもなっている戸田公園。なんでも土手から荒川の流れを眺められるとのこと。荒川といえば一級河川。期待に胸を踊らせやってきたわけだが、地図アプリで調べると徒歩30分の表示。おいおい公式サイトには20分と書いてあったぞと若干の苛立ちを覚えながらもどうせ休みだしなと落ち着き、ひとまず手近にあるサイゼでゲッティを胃袋に流し込んでから移動開始。小ざっぱりした駅を出て田舎道。昨日までの寒さが嘘のように暖かく、薄く汗が流れ、脱いで手にかけたコートへの憎しみが湧き上がる。暑い。不快な程に暑い。そのうえ運動不足から足も重くなり、疲れと眠気が同時に押し寄せ俺に後悔の文字を過らせてくるのだ。何度引き返そうかと思ったが、金を払って来ているんだからと貧乏性な部分が頭をもたげ、せこせこと歩き続けていると異変に気がつく。地図アプリ上で、目的地から遠ざっている。GPSが死んでいるようで、逆方向に進んでいたことに気がつかなかったのだ。

この理不尽なでき事に奥歯を噛み締めUターン。ただでさえ遠いのに意図せぬ道草で更なる時間の浪費となる。

ちくしょう、なんで河なんかを見ようなんて思ったんだ。部屋で酒飲んでた方がマシだったじゃないか。もはや汗も滝のようだ。如月時期の太陽じゃねぇ。あぁ、遠い。


もう何もかもが嫌になり、道中見かけたファミレスで酒飲んで帰ってやろうかと自棄になっていた。しかし、とうとう河川敷が見えてくると、心に喜びが差し込んだ。河が、目の前に飛び込んでくる。遠慮なしに降り注ぐ陽光を反射しながら波打つ河流。爽やかな風に揺れる芝生。植えられた木々は季節的に葉や花の彩はなかったが、それでも立派な榛摺が象徴的だった。湊には水鳥が羽を休め、遠くの方で漕艇部が水面をゆっくり割いている。


「……河だ。まごう事なき河だ。長かった。とうとう到着したのだ」


一人呟き土手に腰をおろすと、そよ風が熱った体を冷ましていく。なんだかんだあったが、全てが心地よく、来てよかったと、そう思った。だが、いかんせん、動き過ぎた。一度座り込んだが最後、体が中々動かない。疲労により、脳が四肢の稼働を拒否しているのだ。


「帰りは、タクシーだな……」


静かに流れていく時間の中、俺はタクシーの出費分、夕食の献立どう節約するかを考えていた。

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