【完結】ヤクザの組長の娘は俺のファン

もぶだんご

第1話 サッカー少年とヤクザの娘

俺は物心着く頃からのサッカー少年だった。


空き時間があれば近くの公園で、サッカーの練習をしていた。


そして俺が練習をしていると毎日のようにそれを見ている女の子がいた。


特に話すこともないし、あっちも話しかけて来ることはなかった。


でもある時、ボールがその女の子の所に転がったことで、俺の未来は大きく変わることになった。


「ごめん、ボールとってー」

「う、うん」


女の子は少しオドオドしている様子だったけれど、俺にボールを渡してくれた。


「ありがとう!そういえばいつも見ているよね?」


俺の何気ない一言だったのだが、その女の子は気まずそうにしていた。


「...ごめんなさい」

「なんで謝るの?」


「私が見ていてもいいの?」

「邪魔しないし、見ているだけならいくらでも大丈夫だよ」


この女の子は本当にただ練習を見ているだけだった。


変に邪魔してきたり、声をかけてくる訳でもないから、俺としては特に気にすることでは無いし、見ていてくれるというのはありがたい事だ。


「なら、これからも見ていていい?」

「うん、大丈夫だよ」


これが、俺とその女の子...吉原美咲との初めての会話だった。


よく、応援が力になると言うが、俺は静かに見てもらえる方が嬉しい。


そして、美咲とは家が近かったから小学校、中学生は一緒になった。


そんな中で美咲の家が、ヤクザと呼ばれる怖い家の人だと知ったのは、小学校低学年のときだった。


「修斗くん...黙っててごめんなさい。やっぱり怖いよね...」


美咲は俺にヤクザの娘だとバレて、周りの奴らみたいに怖がられると思っていたらしい。


「美咲ちゃんの家の人は怖いかもしれないけど、美咲ちゃんは怖くないよ。美咲ちゃんが良い子なのは俺が知ってるから」


俺がそう言うと美咲は涙を貯めながらも、笑ってくれた。


「ありがとう...修斗くん」


「んじゃ、いつもの公園でサッカーするけど見に来る?」


「うん!」


そうして俺と美咲は自主練をする時は公園に行って、日が沈む頃に帰るという事を繰り返し、いつかは日課のようになっていた。


そしてある時俺は美咲に聞いた事がある。


「美咲って俺の自主練見るけど、楽しいの?」


美咲は俺の自主練をただ座って見ているだけだった。


普通の子ならそんな事は飽きるし、つまらないと行ってどこかに行きそうだった。


「私、友達が居ないの...だからこうして見ているのが楽しいんだ。修斗くんは私の事怖がらないしこうやって話してくれるから」


「ふーん、やっぱり学校のやつら損してるよな」


「損?」


俺はリフティングをやめて、ボールを転がすように美咲にパスをした。


「だってこんなに良い子なのに、怖いとか言って避けるだろ?見る目ないよなぁ」


美咲を避けるのは、小学校が終わっても終わらなかった。


中学生になった今でも美咲は避けられていた。

イジメとかはないけれど、ヤクザの娘というのは怖いものらしい。


「修斗くんだけだよ。そんなこと言ってくれるの...」


俺は美咲からの少しズレたパスを取りながらも、少しづつ美咲が辛いことを理解してきていた。


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