第4話 その混沌、神級をも殺す

この世界で、魔法が無くても頑張れるなんて夢物語は存在しない。


それが分かってるからこそ、シスターは俺に何も言わずただ抱きしめたんだと思う。

慰めようと発する言葉すら、今の少年にとって刃となると分かっていたから。


……でも、その優しさからも俺は逃げてしまった。


■■


「あが、あぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!」


痛い、苦しい、なんなんだこれは。

とてつもない苦痛だ、まるで身体のうちから爆弾を爆破させられている気分だ。


「あぐ!?」


直後、少年は感じた。


何かが、自身の体から湧き上がってくる!?


それに伴い、様々な言葉が入り込んでくる。

知らない言葉、知ってる言葉、既視感を感じる言葉、脳が理解できない言葉。


「……■本………旧■■…………■実………」


知らず知らずと言葉が溢れ出す。

当然の如く、少年はこの言葉の意味を知らない。

文字通り、少年の脳に何かが入り込んでいる。

ノイズが酷い。

自身で言った言葉すら認識できない中で。

少年はひとつ、呟いた。


「……………………………混沌…………?」


ノイズが、止まった。

そして少年はやけにスッキリした頭で目の前の敵を認識する。


神級。

常人であれば3秒もあれば殺されるような怪物。


けれど少年の頭には不思議と、逃げるなんて選択肢はなく。


ただ、いきなり。

徐ろに、”敵”に腕を向けた。


「ケイト?」


直後、ヘレナ=レコードは聞いた。

何かの音が聞こえる。

ぐちゃぐちゃとした、水音…………?


「─────」


直後。

少女は形容しがたいナニカが少年から放たれるのを見た。

呻き声が聞こえる。

様々な動物が見える。

馬、虎、竜、鼠、牛、鳥……それだけでなく、見えるだけでも500は超えるだろう極彩色を纏うそれらと、それらを繋ぎ合わせているドロドロとしたナニカ。


「ア、ァアァァアアァァァ!!!!!!!」


まるで、だ。

まるで、自らを鼓舞するかのように、鬼は雄叫びをあげる。



しかし。



これから生きていれば、何者にも臆せず、前だけ進んで行ったであろうその足は。

目の前の得体の知れないナニカへの恐怖により後退りした。


それに気づいた直後。

腕、足、腹、首、そして、頭。

その全部がそのナニカによって、”食われた”。

仮にも神級、生物の頂点と言っていい神のような者。

その頂点すら、今の少年の力の前には無力だった。


その混沌は、頂点をも殺して。


やがて少年へと還っていく。

それを少女は、ヘレナ=レコードは黙ってみる事しか出来なかった。


■■


諦めと結論を出したのは何歳の時だったか。

でもそれは諦めたのではなく封じ込めたのだと、今になって気づいた。


「……………う、ぁ」


気が付くと眼前には少女の顔があった。

どうやら自分は気絶していたようで、少女の安心した顔が視界いっぱいに広がる。


無茶した甲斐があったと、そう思った。


「………おはよう」


少女は声を掛ける。


「あぁ、おはよう」


少年も声を返した。


今はそれで充分だと、なんだかそう思った。

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その混沌、神をも殺す。 菊地キリエ @kihara-ani

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