第2話 迷宮へと

ケイト・オールストルは孤児院で育った。


経営者であるシスター曰く孤児院の前に置かれていたという。

だから少年は親の顔を知らない、この黒髪やこの顔が親からどう受け継がれたのかすら知らないのだ。そんな少年を憐れんだシスターによって孤児院へと引き取られ愛情を受けて育ってきた。


孤児院には多くの子供達がいた、少年は特段目立つような容姿や性格でもなかった為、所謂「いじめ」等もなく平和に暮らしていた。



10歳までは。



少し話を変えよう。この世界では魔法が使えるというのが当たり前だ。


それは古から決まっている事で、人々はその力を時には技術に、時には発展に、時には…戦争に使って進化してきた。


そんな魔法なのだが、大体10歳頃には魔法が使えているというのが常識だ。例外なく、全人類がそうだったから。


しかし、ケイト・オールストルは使えなかった。


この世界でこれがどれほど酷な事かをシスターから聞いた少年はそれを隠し、今まで生きてきた。


そして、だ。たまたま、本当に偶然聞いたのだ。


「新しく出来た迷宮には魔法が使える様になる宝石があるらしい」


聞いたらもう、止まれなかった。

全財産を捨て情報屋から場所を聞き、いち早く迷宮へと辿り着いた。


そんな少年は、今。





モンスターに追われていた。




「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!死にたくねぇ死にたくねぇェェェェェ!!!!!!」


馬鹿である。魔法が使えない奴が魔物がそこら中にうじゃうじゃ湧く迷宮を攻略できるわけが無いのだ。


「ふざっけんなマジで俺ゴブリンやスライムの魔級にも勝てねぇんだぞちょっとは手加減しろぉ!」


もう一度言おう、馬鹿である。


「しかし入ったもんは仕方ない!!こうなったらその宝石とやらだけでも見つけてやる!!」


そうやって少年は1歩、力強く踏み出した。



カチッ




「は?」


迷宮、それは魔物の巣窟であると同時に。

罠が大量にある、秘宝を守る砦でもある。


迷宮全体が揺れ動く、空気が振動するのを少年は全身で感じ取った。


ゴロゴロという音が前方から聞こえてくる。


「おいおい……待てよ、このタイプはあれだな?玉が転がってくるタイプだろ!ふふーん、情報屋から聞いたもんねぇ!!!対策はバッチr」


瞬間、少年の視界の左側に巨大な丸い岩の様なものがいきなり出現した。


「そっちかーい」


鈍い音が聞こえる、何処から?少年からだ。


「うげへッ!!!」


少年は横からの衝撃を感じた後、意識を失った。




「う……ん……俺、死んで…………ない?」


どうやら罠にかかった後、岩に押し出されて移動してきたのか?


「しっかし体はなんともないな…」


不自然な位に体が動くのだ、ありえないだろう。

大体2mぐらいの岩に押しつぶされ続けたようなものなのに、そもそも体が残ってる事すらおかしい。


「生きてるにしたってもっと内蔵とかが飛び出ててもおかしくは…」


「うっ……」


「!?」


思考していると背後から呻き声のようなものが聞こえた。


少年が振り向くとそこには灰色の髪の美少女が横たわっており、こちらを瞬き一つもせず見続けている。


「いや怖」


思わず出る心の声、仕方ないだろう、真顔で見続けられるのって結構怖いんだから。


「なんというか本能が恐怖するというか…」


「……?」


「あぁごめん、独り言……って違う」


「アンタ、名前は?どうしてここに?」


「……」


少女は首を捻り、一頻り思考した後、透き通るような美しい声で言った。


「名前……は、ヘレナ。ヘレナ・レコード」


「ヘレナはどうしてここに?」


「……分からない」


「はい?」





「何も分からない……名前以外、何も……」


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