転生三度目の正直で今度こそ幸せになりました

柳屋婆三

第1話 前世

 私はたぶん相当運が悪い。


 そもそも前世の記憶があるのだが、最初の人生は独身アラサーの社畜で過労死した。


 中学生の時に両親を事故で亡くし、以来叔母の家に預けられた。家事を手伝わされ、というよりむしろ家政婦並みに家事をさせられた。叔母は家事は一切しない、外食は嫌い、買ってきたものも食べたくない、というような人で、叔母にお弁当を作り、学校から帰ってすぐに炊事洗濯をし、それから勉強する、というような生活をしていた。お小遣いなどももらったことがなく、高校に入ってからは家を出るために必死でアルバイトをしてお金を貯め、高校を卒業してからは、国立大学に全額奨学金で進み、晴れて叔母の家から出ることができたが、生活費は全部バイトでまかなった。成績が良くないと奨学金がもらえなくなるので必死に勉強していたので、学生時代は部活などもしたことがない。お金にゆとりがなかったので、友達とつきあうこともできなかった。卒業後は就職したが、その会社はブラック企業で残業に次ぐ残業。恋をしたこともなく、挙句の果てに過労死だ。なんとばかばかしい生活をしていたのだろうと、我ながら悔し泣きをしていたところに神様が現れて、転生させてくれた。


 そして生まれ変わったところはどこかの世界の貧乏貴族。

母が流行り病で亡くなり、悲しみから立ち直れない父は酒と博打にハマり財産を使い果たし、もう借金させてくれるところも無くなったところで、借金の形に私が嫁に取られることになった。18歳の時、借金が返せない以上、嫁に行くしかないので納得して嫁に行った。


 嫁いだ先は、羽振りの良い公爵家。私はその嫡男ラルフの嫁となった。まあ、嫁とは名ばかりで、夫は私に指一本触れなかったし、それを知った使用人たちも私にはとても冷ややかだった。いいですけどね、家の借金肩代わりしてもらったんだから。


 夫となった人は、見目麗しくお洒落でスマートな男性。社交界の憧れの君だったので、結婚できなかった令嬢たちからずいぶんと意地悪をされた。今となってみればその頃が懐かしい。

その人が憧れの君だった理由は、恋人を持ったりしなかったからのようだ。令嬢方が秋波を送っても無視、ダンスのお相手をお願いしてもお断り、男女というのは対応が’冷たいと余計に追いたくなるもののようだ。そんなわけで、その方が私と結婚なさった時は、皆が驚き、嫉妬した。


そんなに人気のある方が、なぜ私のような貧乏貴族の娘と結婚したのか。それは、誰にも言えない秘密があり、それが知れては困るのでお金で口封じできる私がよかった、というわけだ。それを知っていたら、さすがの父もなんとかして避けてくれただろう。


 ある日、ラルフは朝から気が立っていた。こういう時はできるだけ近づかないようにするのだが、その日は呼ばれてしまった。呼ばれてしまったら行かないわけにはいかない。しかたなくラルフの部屋に行くと、

「おい、キャサリン、きのうはどこに行っていた。」

「どこにも出かけておりません。」

「嘘をつけ!」

「本当でございます。邸から一歩も外に出ておりません。」

「まだ口答えをするのか。素直に謝れっ。」

ラルフの目がつり上がっていて、これはもう何を言っても無駄だと思った。

「申し訳ございません。」

「そら見ろ、謝ったな。謝ったってことはどこかに行ったが嘘をついたということだな。」

「そんな。」

キャサリンは、これは話をしても無駄だと思い、逃げ出そうとした。逃げればさらにひどくなるとわかっていたのに。少し走ったところでラルフに腕を掴まれて、それを振り払おうとした時、勢いついて階段から落ちてしまった。


・・・・・・


「あーあ、まただわ。前回は過労死、今回は事故死。私って、ほんと、ついてないわ。」

「ごめんね。転生先を間違えちゃった。」

「あなたは?」

「神様だよー。ごめんね、前回君が過労死した後転生させたの僕だったんだけど、覚えてない?」

「そうですか・・・」

「転生先が貧乏貴族令嬢だったけど、公爵嫡男と結婚して幸せになれると思ったのに、こんなことになるとは思わなかったんだ。ごめんね。」

(なにこれ、ツッコみどころ満載の人が神様って。でも、たしかに良い人そうで、憎めないわね。だから神様なのか。妙に納得。)

「いいえ、もう、過ぎたことですので。」

「こんどこそ、幸せになる転生先を用意したからね。今回は、僕の上司も一緒に見てくれたんだ。だから大丈夫だよ。今まで辛い思いをした分、取り返してね。」

「はあ・・・あの、そんなに幸せじゃなくても、私はもうしょうがないと思ってますけど、せめて、あまり痛くないようにお願いします。」

「うわー、やっぱり怒ってるよね。ごめんね。うん、今度こそ、大丈夫だから。」

そこでまた記憶が途切れた。

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