第31話 俺達も風紀を乱すか

 〈いろは〉に怒られると思うし、友達がいなくなったからだ。

 裏切者状態のままで働くのは、俺の繊細なメンタルへ悪い影響が出てしまう。


 〈紅湯別館〉に行くと、〈いろは〉がロビーで待っててくれた。


 軍服みたいな制服は脱いで、今は白いブラウスと青いスカートをはいている。

 似合っていると思う、自分の嫁なのにまぶしく感じてしまうほどだ、俺は旅で汚れた継ぎはぎの服だからな。


 「へぇー、良く見たら、その服、パッチワークなのね。 あなたにしては良いセンスだと思うわ」


 〈あなたにしたら〉って、どういうこと、かなり失礼じゃやないか。


 「はぁ、俺のセンスは一流だぞ」


 「ふふっ、その戯言たわごとはいつの日か、ひまで仕方がない時があれば、徹底的に話し合いましょう。 それよりも、お風呂に入った方が良いわ。 ここは赤い色の温泉で、昔から有名なんだって」


 言われたとおり俺はかなり汚れているからな、〈いろは〉に従うことにする、風呂が嫌いなわけでもないからな。


 はぁー、癒されるな、ちゃんとした風呂はいつぶりだろう、旅の間は体をふくだけだったからな。

 だけどここの湯はちょっと赤すぎるぞ、血の色みたいだ。

 湯に多くの鉄が混じっており、それが酸化、つまりさびたから、こんない赤くなったのだと思う。


 〈いろは〉がもう使ったのだろう、タオルも初めから赤かったな、洗濯しても落ちないらしい。

 温まる感じはするけど、うーんと思ってしまう。

 だけど文句は言わないでおこう、俺が借りた宿じゃないんだ。


 「おぉ」


 風呂から上がった俺は、真新しい下着が用意されていたので、ちょっと感動してしまう。

 旅の途中では考えられないことだ。

 体をふいた時でも、脱いだものをそのまま着たことしかない。


〈いろは〉が俺のために、前もって用意してくれていたんだ、目頭が熱くなり涙がこぼれそうになる。


 「湯加減はどう…… 」


 〈いろは〉が言い終わらないうちに、俺はまたギュッと抱きしめた、涙をこらえるためだ。


 「きゃっ、またなの。 ちゃんと体をふき…… 」


 俺が〈いろは〉にキスをしたから、言葉が途中になったけど、それがどうした。

 〈いろは〉の耳のあたりを両手で包むようにして、近づけた桜色の唇を、俺は夢中で吸ったりはさんだりめたりする。


 いきなりのディープなキスだけど、嫁なんだから何も問題ない。

 ついでに丸いお尻もんでおこう、これも嫁なんだから、揉まないとかえって失礼にあたる。


 「うー、いやぁ、もぉ、がっつかないでよ」


 〈いろは〉が少し苦しそうにしてたから、俺は唇を離して、腕の力を緩める。


 「だって、しょうがないだろう。 新しい下着に感動して興奮したんだ」


 「えぇー、嘘でしょう。 いつ見えたのよ? 」


 はぁ、この嫁は何を言っているんだ、自分が用意して置いたんだろう。

 んー、スカートのすそを気にしているな、あっ、そういうことか。


 「おぉ、見たいぞ。 その新しい下着を見せてくれよ」


 俺は〈いろは〉のスカートをめくろうとして、パシッと手を叩かれてしまった。


 「もぉ、ムードが無さすぎ。 私達は小学生のカップルじゃないんだよ」


 いや、小学生のカップルは、こんな事はしないと思うな。


 だけどムードが無いのは、そのとおりだ、今現在のスカートの中を諦めて、もう一度今度は軽くだけど長いキスをしてみた。

 これが正解だったようで、〈いろは〉の顔が満足そうに変わっていく。


 〈いろは〉の小振りな唇は、少しぷっくりと厚く、柔らかくてしっとりとしている。

 だんだん熱を持ち、俺の唇を吸って挟んで舐めてもくる、さっき俺がしたキスへの返答なんだろう。


 久しぶりだからか、〈いろは〉とするまともなキスは、俺の頭をクラクラさせるよ。


 「えへへ、あなたへのえはかなりおさまったわ。 次はお腹の飢えを満たしましょう。 一階にレストランがあるのよ」


 「えー、俺はまだ狼のように飢えているんだ。 がぉー」


 〈いろは〉のおっぱいを触りにいったが、触ったと思ったらスルリとかわされてしまった、ひと揉みしか出来ていない。


 「うふふっ、それはまだ、おあずけなのよ、可愛い私のワンちゃん」


 うげぇ、気持ち悪くてきそうになる、俺が可愛いワンちゃんだと、地獄のように似合わねぇー。


 嫁だけど〈いろは〉の感性が時々分からなくなる、毒に近い言葉のチョイスだと思う。


 一階のレストランで夕食を食べていると、この旅館で寝泊まりしている団員なんだろう、若い女性が何回か会釈えしゃくをしてきた。

 もちろん俺にじゃない、幹部で局長の〈いろは〉にだ。


 「んー、〈温和な真女団〉は隣の屋敷を拠点にしているよな。 大きな建物だったけど、全員が入れないほど、団員が増えたのか? 」


 「団員はそんなに増えていないわ。 三十三人よ。 ここは、アレよ。 お屋敷は男子禁制だから、私みたいに男性のパートナーがいる人は、もちろん。 同性でもパートナーがいる人が泊まっているのよ」


 「おぉ、アレって、やり部屋ってことか? 」


 「はっ、なに言ってるのよ、 このドスケベ。 愛をはぐくむ場所に決まっているでしょう」


 うーん、なにがどうちがうのだろう、はっ、言葉が違っているんだ。


 「男性のパートナーがいる人は、何人くらいいるんだ? 」


 「そうね。 私を含めて三人だけよ」


 「へー、そうなのか。 少ないような気もするけど、元々女性だけのパーティーだからな」


 「他に女性だけの大規模パーティーが存在しないので、断定は出来ないけど、こんなもんじゃないのかな。 結婚や恋人が出来たら、辞める人もいるしね」


 会釈していく団員のほとんどが二人組だったのは、百合カップルだったんだ、百合百合されると風紀が乱れるため隔離されているんだな。


 さあ、ワインをグッと飲み干して、俺達も風紀を乱すか。


 「念ために聞くけど、俺もここに泊まっていいのか? 」


 「良いに決まっているでしょう。 そのためにここを選んだのよ」

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