24
ぽつりぽつりと語り始めた婦人。
婦人の出会った模倣持ちの男は、誰彼構わず体に触れ能力を模倣した。
理由はもちろん金儲けのため。
最初のうちは劣化版だと誰もが馬鹿にしていたが、男は賢かった。
2つの能力を使って1つの能力の時よりもさらに便利にしたり、能力者自身が思い付かなかった能力の使い方をしたり。
能力を持っていない者は感心し、模倣の男を頼るようになった。さらにはまだ持っていない能力を男に模倣して欲しいと頼む者が出てくるほどだった。
形勢逆転。模倣の男は劣化を賢さで補いオリジナルよりも良く魅せた。
人気も鰻登りで能力を持っていない人はほとんどが男の虜だった。
そんな模倣の男をどうにか蹴落とさなければならない。
そう思った能力者達は男をこの世から消すことを決意した――。
「そ、その後どうなったんです?」
昔の能力者について、詳しい話を誰からも聞かせてもらえていなかったユイは興味津々だ。
婦人は少し悲しそうな表情を浮かべ話を続けた。
「まず人のものを奪う汚い人間だと言い回り、あいつのせいで生活が苦しくなったと話し、同情を買いました」
「実際、苦しくなった人もいたらしいですしね」
「ええ、そうですね……。他にも模倣の男の能力を借りる奴は全員罰すると言い出す人も多く出てきました。そして、男は何者かに殺され幕を閉じました」
それから模倣は悪として人々に言い伝えられ、今に至るのだと婦人は言う。
「許可も得ず模倣で金儲けをした男が悪いのは事実だが……今後もずっと模倣持ちが嫌われるのは違くないか?」
ギンは元々模倣の能力者であるユイに助けられたこともあり、模倣の人間が悪という認識はない。
だからこそ、過去の人間のせいでユイも悪く言われるのが気に食わない。
その様子を見ていた婦人は体を縮こませた。
「それは、そうなのですけれどね。なかなか払拭されないものです。私も貴女を見るまでは嫌悪していました。私の能力が悪用されたわけでもないのに」
きっと店はカモフラージュで、不正に人の能力を売っているに違いない。そう人々は口を揃えて言い、店に寄りつかないように注意喚起をしていたと話す。
「でも、能力の登録のために来てくださったんじゃないですか。それだけで嬉しいです」
「……お恥ずかしい話ですが、お金に困っていたのが1番の理由です。無料で登録できるのなら損をすることはないと思ったのです。国が管理しているのなら、お金を取られる心配はないと思ったからなんです」
恥ずかしさと申し訳なさで婦人は俯き、震える手で顔を覆った。そんな婦人にユイは優しく声をかける。
「お金は生きるために必要ですからね。1週間が長いようなら、国に早く手続きできるようお願いしてみますが、いかがですか?」
「……良いのですか?」
「大丈夫ですよ。今なら時間に余裕がありますし」
任せてくださいとユイは良い笑顔で婦人を見た。
ミックスジュースを婦人に出し飲んでもらっている間に、ユイは通話機で模倣屋の担当者に連絡した。
暇であり無害な能力であったため、担当者は2つ返事で了承。
2,3日で利用できるよう調整するということで話がまとまった。
「水の能力を借りたいと言っている冒険家の人がすでにいたらしく、お金も早めに入金してくださるそうですよ!」
「ほ、本当ですか?」
パァッと表情の明るくなった婦人。先ほどまで暗く沈んでいたのが嘘のようだ。
担当者がすぐに資料を送ると転送してきた文書。
通話機に受信できるため、その文書を婦人に見せた。
「長期に渡って借りたいということだったので、毎月一定の額が支払われるようになります。紙の文書は後日お渡ししますね」
能力を借りる日付と支払われる金額を確認した婦人は涙をこぼした。
「私の能力でこんなにも大金をいただけるなんて……夢見たいです」
「能力の貸し出しはしてなかったのか?」
「はい。体力がなかったものですから」
能力者は基本ギルドに登録をして能力の貸し出しを行なっている。
だが、婦人は能力の覚醒が遅く、覚醒した頃にはすでに年老いていた。
水の能力は重宝されるものだが、ダンジョンに潜ったり、長期に渡る遠征に連れて行きたいという話が多い。
老体ということもあり、連れまわせるほどの体力がないとして拒否されてしまっていたのだった。
婦人は大喜びで契約書を大事に抱え、ユイとギンにお辞儀をして帰って行った。
2人は婦人が見えなくなるまで手を振った後、椅子に座り一息。
ユイは閃いたとでも言いたげに目を輝かせた。
「能力持ちでも連れ歩けないからと断念している人に模倣屋って、もしかしてかなり相性いいのでは?」
「そこは考えてなかったのか?」
「考えたこともなかった! ギルドに貼らせてもらえないかなぁ?」
「なんて張り出すつもりだ?」
「ギルドに登録できなくても大丈夫! 模倣屋には無限の可能性があります! ……みたいな?」
「ギルドに喧嘩売ってるだろそれ! あと何が伝えたいのか何もわかりにくい」
「ま、ポスター作る余裕なんてないし地道にやるしかないかぁ」
「……そうだな」
2人は沈んでいく夕日を眺めながら、次の客が来るのを時間ギリギリまで待ったのだった。
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