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「ユイ、来たぞ」

「ユウキさん! 登録に来てくれたんだね!」


 警察の仕事で多忙を極めていたユウキ。やっと休みをもぎ取り、こうして模倣屋にやって来た。

 

 能力の登録手続きなので仕事中に来ても構わなかったのだが、ユウキは手続きだけ済ませて帰るつもりがなかった。

 だからこうして休みの日に模倣屋へ足を運んでいる。


 ユイはすぐに書類の準備をして説明をする。

 雑談を交えながらも着々と手続きを済ませている姿を、ギンは黙ってぼんやりと眺めていた。

 仕事の流れはだいたい覚えているが、いざ自身でやるとなるとできるか不安なのだ。

 ギンは結構小心者だ。

 

 ユイは書類関係を片付けた後、模倣の力を使いユウキに触れ能力を模倣した。

 見た目だけではユイが模倣した能力を確認することはできない。だが、能力を模倣された側は身体から何か吸い取られる感覚がある。

 


「――これで終わりです。お疲れ様でした」

「へぇ、こんなものでいいのか」


 ユウキは拍子抜け。

 書類の内容確認と必要書類の提出やサイン。そして自身の能力を座ったまま模倣されて終わり。

 あっさりと模倣されたことにユウキは1人、「これがチート能力ってやつか?」と愛読しているライトノベルを思い出す。

 その傍ら、ユイは上機嫌にユウキへ笑顔を向けた。

 

「国が登録するよう推奨してるから、一般の人より手続きが簡単なんだよ〜」

「書類仕事で参っていた私にはありがたいな。……さて、せっかくだしミックスジュースでももらおうか」


 ちらりとジュースの立て看板を見てそう言ったユウキ。

 ギンはすぐにコップを持ち、ジュースを入れる。慣れた手つきで蓋とストローをつけてユウキに差し出した。

 受け取る時、少し2人の指が触れ合う。

 ピリッとした痛みがユウキの指に走った。

 だが、静電気か何かだろうとユウキは気にせずギンへとお礼を言い、ミックスジュースを飲んだ。


「ほぉ、これは美味いな。何度も飲みたくなる味だ」

「模倣屋だけじゃ今はやってけそうもないから作ってるの。ほどほどに宣伝してくれると嬉しい」

「ん? ほどほどでいいのか?」

「うん。じゃないと定期購入してくれてる人の分の確保ができなくなっちゃうから」

「定期購入? それはいいな。私もできるか?」

「もちろん! あ、でも忙しいよね? 宅配は今してないんだ……」

「部下に取って来させるよ。あいつらも模倣屋のミックスジュースを気になっていたからな」

「それは光栄だなぁ! じゃあ、今度はこの契約書にサインをお願いします」


 契約書を読んだ後、躊躇いなくユウキはサインを書いた。

 ユイは記載不備がないか確認した後、定期購入者に渡している名前入りのカードを渡す。


「これを見せてくれたらお渡しします」

「了解。お金は銀行から自動で引き落としてもらえるんだったよな?」

「うん。契約書に記載してもらった銀行から引き落とすよ〜」


 先ほどユウキの書いた契約書の引き落とし先の記載を指を差すユイ。ユウキは一度自分の書いた内容を確認した後大きく頷く。


「……記載ミスはなさそうだ。これからよろしく頼む」

「こちらこそー! 次は能力も借りてね」

「もちろん。警察側で借りたいのはたくさんあるんだ。ちょくちょく見にくるよ」


 ミックスジュースを飲み干したユウキは「ごちそうさま」と言った後、模倣屋を離れた。

 

 また暇な時間ができると2人は高を括っていたが、すぐに1人の70代くらいの婦人がユイに話しかけた。


「あの、私も能力を預けることはできるのでしょうか?」

「はい、預けられますよ。ちなみにどんな能力ですか?」

「……手から水を、出せます」


 手のひらに水を出して見せる婦人。

 それを見て前に乗り出すユイ。

 隣でギンも目を瞬かせていた。

 

「え、すごい! それって、飲めたり?」

「はい。検査したところ飲めるらしいです。美味しいかはわかりませんけど」


 ユイは婦人にコップへ水を注いでもらい匂いを嗅いでみたり眺めたり。一口飲み味わった後、「水だ!」と笑顔で言う。

 ユイのゆるりとした雰囲気に、先ほどまで緊張していた婦人は硬くなっていた表情を少しだけ緩めた。


「この能力があれば水持って行かなくて良さそうですね。これって、使ったら何か疲労が溜まるとかそう言うのはありますか?」

「少量なら疲労は感じません。ただ、大量に使ったことはないので……」

「なるほど! ありがとうございます」


 サラサラとメモを取りユイは気になる点を聞き、何度もお礼を言う。

 そんなユイの低姿勢な姿に、婦人は仮契約が終わる頃には柔らかい笑みになっていた。


「ありがとうございました。本契約は1週間後に行います」

「すぐではないのですね」

「契約者様の気が変わることもありますし、こちらも模倣で取り扱えるものか、一般の人に貸し出して良いものか等、国に確認してもらう必要があるので」

「結構しっかりされているのですね」

「模倣は不信感が強いですからね。できるだけ安心してもらえるようにしています」


 「それはありがたいです」と朗らかに笑っていた婦人は、顔を曇らせユイを見て語り始める。

 

「私は若い頃……貴女が生まれる前に、模倣能力者に会ったことがあるんですよ」

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