燃えた先の話

 朝ごはんを食べた私は、清水のおばちゃんと日比野のおばちゃんの家に向かうのが日課になっている。

 二人のおばちゃんとは、私が一人で川を眺めているときに出会った。

 その日は、私がこの街に遊びに来た一日目だった。空は快晴それでも私の心は曇り空。友達もいないこの場所で、一人寂しく川を眺めていることしかできなかった。

 そんな時、二人のおばちゃんは私に話しかけてくれた。

 初めは目を合わせるのも緊張したけれど、一時間もしないうちに仲良くなっていた。

 二人は古くからこの街に住んでいるらしく、昔話をよく話してくれた。

 怖いものからほっこりするものまで、色々な種類の話を面白おかしく、時には私怨を感じる物もあったけれど、それでも私は飽きずに今日もその話を聞きに来た。

 とはいっても、毎日のように家に遊びに来ているので、今日は私からの質問のようなものをしてみた。

 この街に来てからずっと気になっていた。街のみんなはそれが普通なのか、気にしたような様子はなかった。それは二人も一緒で、私がそのことについて問いかけると、ああ、とまるで今の今まで忘れていたかのような反応を見せた。

 私が問いかけたのは山についてだった。山とはいっても当然普通の山ではなく。いつ見ても燃えている山──それなのにこの街には決して燃え移らないまるで結界でも貼ってあるかのような光景。

 その光景について問いかけると、清水のおばちゃんが答えてくれた。

「あの山はね。昔々、アホでマヌケのバカが、自分が死ぬために燃やしたんだよ」

「焼身自殺……」

「そんな大それたもんじゃない。あのクソ野郎は、散々純粋な女の子を弄んだ結果、その女の子のことを化物とか言って逃げ出したんだ」

「ひどい奴ですね」

「だろう?」

「はい、それでそいつはどうなったんです? ちゃんと地獄に落ちたんですかね?」

「んいや、地獄に落ちるどころか、今もしぶとく生き残ってるよ。毎日のように、まだわからないからって、意味のわからないこと呟きながらね」

「なんですかそれ」

「笑えるだろう?」

「はい……とっても」

「今度、会いに行ってみたら? 実物はもっとマヌケだからさ」

「私が? 会えるの? その人に」

「ああ、会えるよ、この街の人間なら誰でもね」

「へー、今度行ってみる」

「その時は私がこう言ってたよって、言っていいよ」


『死ぬのってカッコ悪いよ』

 

「そうすれば、もっと面白い顔が見られるはずだから」

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ノスタルジー tada @MOKU0529

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