第14話「幼なじみはサンタクロース」
今夜はクリスマスイヴ。
駅前のイルミネーションと、それを見ている恋人同士を横目にいつもの裏路地へと進む。
喧騒を抜け静かな夜道、いつものコンビニの灯りの方が私は落ち着く。
聖なる夜でもルーティンのお買い物。
コンビニへ入ろうとすると「ねぇお姉さん」と声を掛けてくる怪しい男。
「なんですか」
「クリスマスケーキ買ってくれ」
「いらないです」
「今日はイヴだよ?ケーキ必要だろ?」とサンタクロースの格好をしている竜太。
毎年クリスマスイヴは店の外に長テーブルを置きケーキの販売をしているのだ。
「やだよ、こんなサイズのケーキ」
それは大きな大きなクリスマスのホールケーキ。
「このラスト1個売り切れるまで帰れないんだよ。オレは毎年この日になるとマッチ売りの少女の気持ちが良く分かる」
「マッチ売りの少女はお金持ちに助けて貰うハッピーエンドに改変されてるバージョンもあるみたいだよ」
「じゃあオレの事も助けてくれよ。ホールケーキの1個くらい食べられるだろ?」
「量じゃないんだよ!クリスマスに1人でホールケーキ食べてたら可哀想でしょうが」
「アラサーのオジサンが寒空の下でサンタクロースの格好してるのとどっちが可哀想?」
そう言って竜太は両手を広げ真っ赤な衣装を見せつけてきた。
どれほど外にいたんだろう、赤い鼻先はそれトナカイです。
「・・・ケーキ、ヒトツ、クダサイ」
「お買い上げありがとうございまーす!」
「まぁ、このやり取りも毎年の事で慣れたけどね」
「仙花、これ持ってて」
私にケーキの箱を渡すと、竜太は簡易ケーキ売り場を片付け始めた。
「っていうかさ長久くんにサンタの恰好して貰えばいいじゃん。すぐケーキ売り切れるよ」
「あいつ今日は休み。彼女と横浜デートだってさ」
「長久くん彼女いたんだ」
「なにショックうけてんの?」
竜太は私から箱を奪い取り先に店内へと入っていく。
「別にショックとかじゃないし」と私は後ろからついて行き店内へと入る。
竜太は箱を持ったままレジカウンターへと向かい、私はいつもの商品を取りに店の奥へと進む。
ケーキを食べるからお茶、そしていつもの商品をレジへと置いた。
「ねぇケーキ買ってあげるんだから1個教えてよ。前に私に好きなタイプ聞いた事あったけど竜太のタイプってどんな子?」
「なんだよ急に」
「クリスマスイヴだから浮ついた話を聞きたいんだよぉ、お願いお願い!」
今まで竜太の歴代の彼女は何人か逢った事あるけど、みんなバラバラのタイプだった。
「強いて言えば、オレでも大丈夫な人」
竜太は商品スキャンをしながら淡々とそう答えた。
「なに、それ」
竜太は優しいし、一生懸命だし、子供好きで、幼なじみの私が見ても見た目だって悪くないと思う。
それを「自分でも大丈夫な人」って。
どうして選ぶ権利がないみたいな事言ってるの。
変なの。変だよ、そんなの。
「竜太!来年で30歳だよ!もっと高みを目指せよ!諦めんなよ!」
「なんでいきなり熱血出してきてんだよ」
「竜太が悪い!来年はケーキ買ってやんないからね!」と少し乱暴気味にセルフレジを済ませ帰宅した。
イラついた勢いに任せケーキは一瞬にして完食。
そして次の日。クリスマスの朝。
幼なじみのサンタクロースからのプレゼントは盛大な胃もたれだった。
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