第3話「スマホの料金が高い」


やってしまった。


スマホの料金引き落としがあるのにそれ専用の口座にお金を入れるのをすっかり忘れていた。


料金を支払って下さいのお手紙が来て愕然。


どうりで最近お金が余ってると思ったよ。


私やりくり上手じゃん!すごいじゃん!


自分へのご褒美に!ってお餅でワッフルを作る機械を買ってしまった。


私は料金支払いの用紙を持って深夜のコンビニへと走った。


「公共料金の支払い?」


「う、うん・・・」


なかなか用紙を渡せずにいると

「なにをモジモジしてるの」と訝しげに見られてしまった。


「スマホの料金見られるの恥ずかしい」


「仙花の恥ずかしがるポイントがよく分かんないんだけど、今すっぴんでまゆ毛が全くないのは平気なのに料金支払いは恥ずかしいの?」


「江戸時代の既婚女性はまゆ毛全剃りだったらしいよ!」


「仙花は未婚じゃん。それにこれも仕事だから見ても何とも思わないよ」と竜太が手を差し出してきた。


「じゃ、じゃあお願いします・・・」


私は頭を下げ両手で用紙を渡しながら、なんだか卒業式のようだなと内心思った。


そして頭を上げると竜太は用紙を見たまま止まっている。


もしかしてコンビニじゃ払えない支払い用紙だったのかな。


「竜太・・・?」


「料金高すぎ」


「いま何とも思わないって言ってたじゃん!」


「単純に疑問なんだけど、どうしたらこんな料金になんの?」


竜太はレジカウンターに用紙を置くと金額部分を指をさした。


私の携帯料金がどうしてこんなに高いのかそんな事は私の尊厳を保つ為に言えない。


「・・・えっと・・・」


「携帯払いしたネット通販代か」


すぐにバレてしまった。


こうなったら捲し立てて誤魔化すしかないだろう。


それが社会人になって最初に身につけた生きるすべ。


「だってさ大好きなホラーキャラクターのフィギュアが限定販売されてたんだよ?しかも等身大のやつ!

日々のストレスを忘れる為には必要経費なんだよ!」


「今日も会社で嫌な事あったから殺人人形のフィギュア買っちゃおーっと、みたいな事?」


「そうそう!この年になると、色々、あるじゃん?」


【色々】それは無敵の言葉。


色々、と内容をぼやかす事で具体的な事は提示していないが言われた相手は自分の中の大変だった【色々】が蘇り

そんな大変な事があったのなら仕方ないか、と思わせる事が出来るのだ。


私には勝利が見えた。


「色々あるのは分かるけどゲームに課金しすぎて食費使い果たした事あったよね」


勝利は一瞬で霞んだ。


「・・・ありましたね」  


そう。あれは繁忙期のストレス。


財布に分けておいた食費を謎の浮いたお金と勘違いして全て課金に回してしまい、1週間ほどお茶漬けの元だけで過ごし倒れたのだ。


「オレ、仙花んちのお母さんにまたああいう事が無いように見張っててって言われてんだよね」


「・・・あの、どうか母にはご内密にお願いします」


「仙花の趣味だからあんま言わないけどさ、ほどほどにしときなよ」


「ハイ・・・」


気がつくとセルフレジの操作をする指が震えていた。


受領書を手に、これはライフラインを止めるデスゲームの卒業証書だと思った。





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