第1話「私のルーティンと日常」

皆さん、まず想像してみて欲しい。


時刻は23時。閑静な住宅街。


人通りのない薄暗い夜道の中、しばらく歩くと現れるぼうっと光を放つコンビニ。


そしてコツコツという自分のヒールの音だけが辺りには響いている。


これはもうホラー映画に出て来てもおかしくない情景だと思う。


でも、そのコンビニへ帰宅前に寄るのが私のルーティンだ。


夜道の中にあるせいか異様に眩しく感じられて毎度目を細めてしまう。


店内に入るとレジカウンターには目もくれず、すぐに右折。

突き当たりのドリンクコーナーでノンカフェインコーヒーを手に取り、そのまま左の奥でアロエヨーグルトを手に取る。


目を閉じていても私はこのコースをゴールまで駆け抜けられる自信がある。


ゴールのレジに向かうと「お疲れ」と声を掛けてくる見慣れすぎた顔。


ここのコンビニの店長。幼馴染の林道竜太りんどうりゅうた


「竜太、お疲れ様」


レジカウンターに商品を置くと「袋はいらないんだったよな」と竜太が呟きながらレジ打ちを始める。


その姿デジャブ。しかも今朝のデジャブ。


「私達って、朝もここで会ったよね」


「うん、そうだね」


「毎度聞くけど、今回はいつから家に帰ってないの?」


この店はフランチャイズ経営なのだが深刻な人手不足もあり彼はずっと働き詰めだ。


「そろそろ住民票をここに変えようかと思うくらい?」


「いい加減倒れるよ」


「じゃあ仙花せんか、代わりに働いて」


「やだ。コンビニってめちゃくちゃ大変そうだもん」


会計を終え商品をバッグにしまうと辺りを見渡した。


他にお客さんがいないかの確認。


これも毎度のルーティン。


「ねぇ竜太、なんか怖い話ない?」


普通なら唐突に何を言っているんだろうと思うはず。


でも竜太はただ溜息を吐いて呆れた顔をする。


それは私が溜息を吐かれ呆れられるほどこの手の質問をしているからだ。


「今日、万引きがあった」


「うわ!最悪だね!許せない!いやそれもある意味怖いんだけど幽霊とかそういう系のやつが聞きたいの!」


「だからオレそういうの信じてないんだって」


「信じてなくても人づてに聞いた話とかない?」


「ない」


一刀両断。これまたいつものルーティン。


「仙花みたいにホラー好きの人ってみんな幽霊信じてるもんなの?」


そう言って竜太がレジカウンターの向こう、しゃがみ込んで消えた。


具合でも悪いのかと心配になり覗き込むとどうやらカトラリーを補充しているようだ。


私は安心して話を続ける。


「ん〜他の人はどうか知らないけど私は居たらいいなぁって思うよ」


「居たら怖いだろ」


「確かに怖いパターンもあるけど、でも自分の知り合いだったら幽霊でもいいから会いたいもん」


「じゃあオレがもし出る時は1番怖いシチュエーションで出て来てやるよ」


「1番怖いシチュエーション?

それは万引き、発注ミス、バイトの欠勤の全部が重なった時とか?」


少しの間が開いてカウンター端に竜太の指先がぬっと現れる。

そしてズルズルと立ち上がってくる姿はまるで井戸から現れる女幽霊のようだなと思った。


「ハァ・・・今ちょっと考えただけで気を失うレベルで怖いシチュエーションだった」


「あはは。じゃあそろそろ帰るね。次までに怖い話の発注かけといてよ」


「なんだよそれ。おやすみ」


ほぼ毎日通うコンビニの店長は幼なじみで。


ほぼ毎日こうやって話をして帰る。


これが私の日常。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る