第2話 夏のない年と吸血鬼
この作品の最重要ワードは「夏のない年」かもしれません。
説明せずとも何となくイメージは出来る一方、現代人はダイレクトにその語の持つ意味を感じ難く、流すこともできるので、料理し甲斐のある言葉として私には魅力的でした。
恐らく「夏のない年」という単語は世界各地で起こった冷夏を指せると思うのですが、私にとって一八一六年の欧米で深刻だった、という「夏のない年」の印象が強いです。
というのも、それによって外出できなかったことで、『フランケンシュタイン』とポリドリの『吸血鬼』が書かれていますから。主にフランケンシュタインのお陰で私も人生の早めに十九世紀の夏のない年に触れることが出来ました。
少し前、ステイホームという言葉が飛び交い、カクヨムさんでもKACのお題にこの語が使われています。二〇二一年でしょう。
その頃、私は「夏のない年」のように何かを生み出す人がいるのかもしれない、とちょっと思いました。私自身は寧ろステイホームさせてください……と願っておりましたけれども、逆境を土壌に芽生えることも多いのが創作分野です。
その記憶のまだ新しい今が「夏のない年」を題材にする好機かな、と思いました。
「ハリー・ポッターは読んでますが、ナルニアは読んでません」(趣旨)
私にとって、これが昨年の印象的な言葉の一つでした。
自分の世代感覚は限られた同時代の人間だけのもの、と目が覚める、と申しましょうか。
そうなると、十九世紀の小説なんて最早、古文書では、と私は危機感も覚えました。既に十九世紀を舞台に小説を書き始めていた位、この辺りの作品が私の好物でもありまして、読まれないのは残念。
文字は読まれるためにこそあるのですから。
読まれないのは宣伝が足りないのだ!
カクヨムにいらっしゃる皆様ならば、この心理にご納得くださるでしょう。
異常にカクのモチベーションが上がりました。私が一番、書くのは本を紹介したい、という欲求が募っている時です。本をダイレクトに紹介する作品で、
「こんな本ありますぜ? 如何ですか、旦那」
みたいな商魂で売り込む方が意図は伝わると思いますが、その様な下品な宣伝を好まない方もおられることでしょう。ですから、頑張って小説であれこれ書くことも試みます。
もしかしたら「夏のない年」を検索してくださる方もあるかもしれません。そうすると今は色々、紹介してくれるではありませんか。AI様に、Wikipedia様に、その他諸々様が。
人様の作品を宣伝するのは恥ずかしくないので、私、頑張れます。
だって、フランケンシュタインはまだ知名度がありそうですが、吸血鬼と言って思い浮かぶのは大体、ドラキュラですよね。ポリドリ、今の人は読まないのでは?
いや、いっそ私の時代にもドラキュラでしたので、周りが読んでいたかは知らない……。
最早、日本語で読めないのでは、と心配して検索したら、東京創元社さんが傑作集の中に収めてくれていました。グッジョブ!
尚、佐藤春夫さんの文体がイケる方は青空文庫にあるので、無料で読めます。
何故、ポリドリをこんなに勧めるか、と申しますと、貴族的な魅力の吸血鬼という転換をもたらした方だからです。女性吸血鬼は兎も角、男性吸血鬼は民俗伝承では少なくとも紳士ではない……。
ラノベ、WEB小説界がこの偉業を讃えずして、どうします!
さて、知識人達がこうして創作し、「優雅」な時を過ごしている外では自然によって追い詰められている人々がいる「夏のない年」。どう切り取るか、どう俯瞰するかで酷く見え方が変わると存じます。
それもあり、前話に書いた語り手の設定と、この「夏のない年」という表現は相性が良いものでした。この二つでモデル時代を絞り込んだ時、長編を貫くテーマやストーリー、エンディングが突然、湧き出したのには自分でも驚きました。
ダッシュボードに眠っていた没ネタは、断罪から開始し、キャラをまとめて転生させる話(集団転生)でしたからね。実は王子様や姫様、若様の話では殆どなかったもので。
個人的には断罪後のストーリーの方を書きたくて、今、頑張っているところがあります。あ、今書いている話は断罪後も転生しません。
最後に。
『ナルニア国物語』は角川つばさ文庫から出版されています。
カクヨムで立身出世を目指し、未だお読みでない方は是非(笑)
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