第四章 7 サーナの嘆きと怒り


   七




 昨日の奴らがどうなったか、興味本位でサーナは犯行現場に戻ってきた。


 すると人混みが出来ていた。


 鼻歌交じりで、軽い変装をして、人混みに混じろうとしたところ、聞き知った悲鳴が聞こえた。


 人混みの中心に、三人の女とカミュが居た。


 三人は、教会の中でも指折りだった。自分一人ではどうしようもない相手だ。一人なら、なんとかなるかも知れない。だが、三人相手は無理だ。


 どうする?


 爪を噛んだ。


 助けるにしてもどうやって?


 この状況から、彼女を奪い返す方法は無い。隙を突いて、一人を倒せても、残り二人にやられる。


 ならば、この状況が終わり次第病院に連れて行く、それが唯一カミュを救う方法だ。


 こんな状況で、冷静に考えている自分に吐き気がした。 


 遠巻きに見守る人混みの中で、サーナは自分の身体を抱きしめる。


 今すぐ出て行きたい、助けに行きたいという気持ちを、必死に押さえつけていた。


 噛みしめる歯が、ギシギシと悲鳴を上げている。口端からは、血が垂れている。


 一緒に拷問された方が、きっと気楽だ。


 でも、それじゃ二人とも死ぬ。だから、耐える。助けられる、その時まで。


 カミュの身体にレイピアが突き立てられ叫び声が上がる。サーナは自分の耳を押さえようとするのを、必死に我慢する。


 これが、せめてもの罰だ。


 サーナが、招いた事態だ。サーナが、酒場放火の犯人を襲撃しなければ、きっとこんなことにはならなかった。


 カミュの顔面に悪魔憑きの刻印が押しつけられた。


 女の、顔だぞ!


 サーナの両腕に痛みが奔る。思わず、自分の腕を見ると、かなりの血が流れていた。どうやら、自分の身体を抱きしめる際に爪を突き立てすぎていたようだ。


 その時、更なる悲鳴が響いた。


 目を逸らした隙に、カミュの尾が切り落とされた。


 更には、彼女の首を絞め始めた。


 殺す気か……?


 流石に、これ以上は見ていられない。


 サーナは、太ももに隠したナイフに手を伸ばす。


 負けるだろう、殺されるだろう。でも、それをただ見ていたのなら、きっとサーナは、サーナを一生許せない。


 気配を殺し、飛び出そうとした瞬間。


「きゃ、汚い!」


 そう言って、カミュの身体が、突き飛ばされた。


 失禁したのだ。体術で締め落とすと、筋肉が弛緩して、そういうことが起きることがある。


「や~ん、もう!」


「ばっちいですわね」


「お風呂に帰ります!」


 三人は、笑いながら、その場にカミュを置いて、歩き去って行った。


 流石に、教会勢力の住人であろうと、人が拷問にあっていれば心配もする。何人かが駆け寄って、カミュに声を掛ける。


 サーナは、その人達をかき分けカミュの呼吸を確認する。


 良かった、息はある。


 一番まずいのは、太ももの傷だ。


 止血のため、切り落とされた尾で、脚の付け根を縛る。


 病院に!


 自分よりも大きいカミュを、担ぎ上げ組合勢力地区にある病院へと走った。


「死なないでよ、カミュ!」

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