第4話 民衆の英雄

 レイカは、セリスタン王国から連れ帰った魔術師たちに、グリンタフ帝国の大魔道機関の修理を依頼した。


 しかし、魔術師たちはグリンタフでも傲慢な態度を貫いた。


 「修理には半年かかる」

 

 そう言い張って、なかなか作業に取り掛かろうとしない。


「早く修理してください! このままでは、グリンタフの緑が失われてしまいます!」


 レイカは、焦りながら魔術師たちに懇願した。


  「わかってますよ。しかし、この大魔道機関は複雑な構造をしており、修理には時間がかかるのです」


 魔術師たちのリーダー格の男は、言い訳をした。


「そんなことを言っている場合ではありません! グリンタフは、未曾有の凶作に見舞われているのです!」

 

 レイカは、必死に訴えた。 しかし、魔術師たちは、レイカの言葉に耳を傾けようともしなかった。彼らは、グリンタフ帝国の窮状を他人事のように考えていた。


 グリンタフ帝国では、緑が失われ、作物や牧草がどんどん枯れていった。国民たちは飢えに苦しみ、国は混乱に陥っていた。


 病床にあったグリンタフ皇帝は、この事態を知り、激怒した。


 「デュボワ! お前は何をしているんだ! なぜ、エレナを追い出した!」


  皇帝は、息子の愚かさに失望した。


 「父上、申し訳ありません。しかし、セリスタンから連れてきた魔術師たちは、修理に時間がかかると言い張っておりまして」


  デュボワは、言い訳をした。


 「言い訳をするな! お前のせいで、グリンタフは、もう終わりだ!」


  皇帝は、デュボワを激しく責めた。そして、そのまま息絶えた。


 父の死に直面し、デュボワは自分が犯した過ちの大きさに気づき、エレナを追放したことを後悔した。 デュボワは、父の葬儀が終わると、セリスタン共和国へと向かった。


 セリスタンでは、エレナが作業を開始してから、わずか三日で大魔道機関の修理を完了していた。

 国土に緑が戻り、空前の大豊作で民は豊かになって、首都も大発展を遂げていた。

 

 デュボワは、かつての優しかったエレナの姿を、懐かしく思い出した。頭を下げて頼めば、グリンタフに戻って大魔道機関を修理してくれるのではないかと思った。


 セリスタン共和国を訪問したデュボワは、エレナと再会した。しかし、エレナは、以前の優しいエレナではなかった。デュボワを見る彼女の目には、冷たい光が宿っていた。


「エレナ、頼む。グリンタフに戻って、大魔道機関を修理してくれ」


 デュボワは、懇願した。


「なぜ、私がそんなことをしなければならないのですか? あなたは、私を追放したでしょう。今さら、何を言ってるんですか?」


 エレナは、容赦なく言い放った。


  「しかし、グリンタフ帝国が……このままでは滅んでしまう!」


 デュボワは、必死に訴えた。


 「そんなの、私には関係ありません。あなたが蒔いた種です。自分で刈り取ってください」


 エレナは、残酷な言葉を投げつけて突き放した。 デュボワは、絶望した。彼は、エレナに拒絶されたことで、グリンタフが滅亡するのを覚悟した。


 その時、クラウス将軍が現れた。


 「デュボワ殿下、もうお帰りください。エレナは、もうグリンタフの森聖女ではありません。セリスタン共和国民衆の英雄であり、宝なのです」


 クラウスは、鋭い目でデュボワを見下ろした。 デュボワは、何も言えずに、セリスタン王国を後にした。


  そして エレナは、クラウス将軍に求婚された。


「エレナ、あなたの清らかな知性、美しい心、すべて愛しています。私が一生、命を賭けてお守りしましょう。必ず、幸せにします」


「クラウス様、私もあなたに見出されて、人生が変わりました。ふつつか者ですが、末永くよろしく」


 エレナはプロポーズを受け入れて結婚し、セリスタン共和国の将軍夫人となった。


 彼女は、グリンタフ帝国の没落を悲しみながらも、セリスタン共和国の大魔道機関をしっかりと管理し続け、第二の祖国の繁栄のために、その身を捧げるのであった。

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